スーパーエンジニアへの道

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

複雑な問題が最初から完全に理解できる、ということはあり得ないものだが、しばしばわれわれは、それができているものと思い込む。そしてそれは間違いなく惨事へのもととなる。それが、問題に関する仮定を絶えず見なおすように奨励しなければならない理由である。ある建設業者は、マンションを建てる際に、仕上げ材の仕様に「等価」という単語があるのに気づいたお蔭で、三万三千ドルも節約することができた。ある医師は、身体検査の記録を読みなおし、当時は無関係と思われていた兆候に気づくことによって、一人の患者の命を救った。有能なリーダーは、問題に対する自分自身の理解を絶えずテストするための仕掛けを作り上げるものである。彼らは自信の持ち主だが、自分の知的限界については現実的なのだ。 (p.28)

アリストテレスも知っていたように、たいていの「新しい」アイディアは実はほかの文脈の中に存在していたアイディアのコピーなのであって、問題解決型リーダーたちはつねに使えるアイディアはないか、とほかの文脈を探し歩いているものなのだ。最良の教師たちは同僚の教科書や講義や練習問題をたゆまず調べるものだし、最良のプログラマは古いプログラムが新しい仕事に使えるときに新しくプログラムを書こうとは決してしないものだ。最良の回路設計技師はどんな設計がすでに存在しているのか、そしてそれが違った状況下で使えるものなのかどうか知っている。問題解決型のリーダーは、自分または他人によってすでにうまくやられたことを、もう一度やりなおすことには、興味を示さないものだ。 (p.29)

 この道具がそんなにすばらしいのなら、なぜわざわざ「使ってみようという気を起こさせるためにどうこうする」などという必要があるだろうか。MOI理論によれば、自分をより有能な問題解決型リーダーに変容させることに成功するためには、三つのことが必要なのだった。それは、動機づけと組織化とアイディアの三つであった。一人の著者として私は読者に、アイディア組織化のためのヒントを提供することはできる。だが動機づけに関しては、電球の場合と同様、もし読者が本当に変わりたいと思っておられないのなら、私は無力なのだ。
 ただし私は、読者が自己変革に成功するのに十分なだけの動機づけを持っておられるかどうか調べるためのテストを提供することはできる。そのテストは簡単で、読者が変化への準備を調えているかどうかを見るにとどまらず、併せて変化のためのアイディアと、それらのアイディアに形を与えるための若干の組織化法を与えるものである。テストは次のとおり。


 たったいまから三箇月間、個人的な日誌をつけるのに毎日五分間使うこと。 (p.74)