私の履歴書(鳥羽博道-27)

 上場企業の創業経営者七人で「だるまの会」という会を作っている。だるまと言うと七転び八起きという言葉がすぐに思い出されるが、だるまは転ばないという我々の考えから名付けられた。
 メンバーはAOKIホールディングスの青木拡憲氏、カプコン辻本憲三氏、ファンケルの池森賢二氏、スターツの村石久二氏、富士ソフトの野沢宏氏、ニトリ似鳥昭雄氏、そして私。ブレーンに作家の堺屋太一氏、PHP総合研究所社長の江口克彦氏が加わった。
 当初は互いの会社を訪問し、社内を案内され、業務内容や経営ノウハウを聞くにつけ、その凄さに、その都度驚くばかりであった。しかし最近では政治家の先生をお呼びし、話を聞く機会が多くなってきた。日本がどうなるか、いかにしてこの国を良くするか、それぞれの思いがある。
 先週も私のビルにある「救国サロン」に緊急に集まり、今の不況からいかに脱出するかを真剣に議論した。
 私には急激なGDPの縮小でデフレスパイラルに陥るという危機感がある。私はこんな提案をした。公共事業での需要創出では時間がかかり過ぎる。千五百兆円の個人金融資産を即、消費に結びつけるため、今年に限り生前贈与の税率をゼロにする。ただし現金で贈与し一年以内に消費した場合に限るという条件を付ける。車や住宅その他の消費がかなり起きると思う。
 また消費税を福祉税に改め年金、医療、介護その他の社会保障を全て賄い、国民に分かり易く説明をする。それにより将来不安が無くなればさらに内需は拡大する筈だ。
 他のメンバーからは「十五歳未満の子供を持つ親に、子供一人当たり年に百万円ずつ無条件に支給する」との提案があった。費用は年間十七兆円強。消費振興と少子化対策を兼ねる案だ。「財源をどうするのか」。侃々誇々、忌憚無い意見が飛び交う。こうした議論を真剣に交わす友人に恵まれたのは嬉しい限りだ。
 このような議論は理想論と思われるかもしれないが、まず理想を打ち立て、それをいかに実現していくかというのが経営者的発想だ。ぜひ政治家にも取り入れて貰いたい。
 私達の願いは「卓越した国家経営者」の出現だ。
 英国病と言われ続けた英国を救ったサッチャー氏。長らく貧困の際にあった中国を社会主義市場経済を唱え一気に繁栄に導いた訒小平氏。石油を輸入する国は多いが水までも輸入し、建国以来約四十年の歳月で一人当たりGDPが日本を超えたシンガポールリー・クアンユー氏。昔、ブラジルからの帰国途上で見たシンガポールは、まだ貧しい港町だった。国家は一人の優れた指導者により繁栄し、また一人の指導者によって滅ぶ。今こそ日本に優れた指導者が出現する事を切に願う。
 日活の前身の映画会社を作った梅屋庄吉は中国の革命家、孫文に経済支援をした。我々も日本の国を根本から変え真に信頼できる指導者に物心両面で支援していかなければならないと思っている。
 私は振り返ってみると、大した事をやってきた訳ではないが、自分なりの夢は実現されてきた様に思う。私が今最後に望む夢は「努力に応じ国民等しく幸せに住める社会」「世界から尊敬される国、日本」の実現だ。
ドトールコーヒー名誉会長)
         =おわり
 あすから女優 香川京子


---日本経済新聞2009年2月28日