Their purpose in going to war ...

『パル判決書』の真実

『パル判決書』の真実

 アメリカの上院は日本の参議院とは全然違うし、イギリスの上院とも違う。アメリカはユナイテッド"ステイツ"であり、各ステイトが二つの国のような性質を多分にもっている。そのステイトの代表が二人ずつ集まって構成されるのが上院である。大きい州も小さい州も、経済力のある州もない州も、それぞれ上院議員は二人である。そして、どの州にも属さない場所(DC)に集って議論する。上院議員の勢力は一人で下院議員の一〇人分くらいあるといわれている。
 上院は各州共通の問題を主として扱う。各州の共通の話題でいちばんの問題が軍事・外交である。したがって、上院の軍事外交合同委員会の公聴会で証言したとなると、これほど重要な証言はない。
 では、マッカーサーはそこで何を述べたのか。われわれ日本人が注目すべきは、そこでマッカーサーが「Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security」、つまり「日本人が戦争に入った主たる目的は自衛上やむにやまれぬものであった」と証言した部分である。趣旨としては東條英機の宣誓供述書と同じようなことを、マッカーサーは述べたのである。
 「日本は侵略国家であり、悪い国だ」という東京裁刊の決めつけが戦後日本を悩ませてきた。日本を悪い国だと断罪したものは東京裁判以外にはない、その東京裁判法源マッカーサー連合国軍総司令官のチャーターである。そのチャーターを出した当人が、日本有罪説を公の場で全部取り消したといってよい。
 そうであるにもかかわらず、いまでも東京裁判が問題になるのは、日本でこのマッカーサー証言か報道されなかったことが大きく影響している。
 マッカーサー証言の原文を小堀桂一郎氏を通じて入手し、私が最初に雑誌Voice』に原文入りで引用したのは十年ほど前のことだが、これだけ重大なものを、当時から今日に至るまで、日本の大新聞は報じていないし、テレビもラジオも取り上げないのである。
 先に挙げたウェーキー島の会談録と違って、この証言は上院の公聴公で述べ、全文が「ニューヨーク・タイムズ」に載ったのだから秘密でも何でもない。それがあたかも機密事項であるかのごとく、日本では知られていない。こんな不可思議なことがどうして起こりうるか。理由かなかなかわからなかったが、井伏鱒二剽窃事件で腑に落ちるところがあった。

太字で強調した英文で、あまり馴染みのない "dictate" なる単語が使われている。この単語を cobuild で調べてみる。

If one thing dictates another, the first thing causes or influences the second thing.

先の文に当てはめると、Security caused or influenced their purpose in going to war. と解釈できる。先の英文がすぐにこの意味の通り解釈できる人はすくないのではないだろうかと、ふと思った。


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