文系?理系? - 人生を豊かにするヒント - 志村史夫

二酸化炭素で地球が温暖化?

 いま、「周期的な太陽活動によって、地球は寒冷化したり、温暖化したりする」と述べましたが、ついでに、近年、すっかり「定着」してしまった感があります「二酸化炭素(CO)の増加→地球温暖化」説について簡単に触れておきましよう。
 地球温暖化に対する人々の関心が急速に世界に拡がったのは一九九〇年代以降のことで、その「地球温暖化」の主因は「人為的に排出されるCOの増加」だということになりました。
 そもそも、「COの増加→地球温暖化」説なるものが喧伝されるようになったきっかけは、一九八八年、アメリNASAのジェームズ・ハンセンの「気温変動とCO濃度との関係」を示す報告でした。一八世紀中頃の産業革命以降、化石燃料の消費量は増加の一途を辿っていますので、それに伴ない、地球大気中のCO濃度が一貫して急増しているのは事実です。また、近年、地球の平均気温が上昇しているのも事実です。しかし、長いスパンで気温の変動を見ますと二酸化炭素濃度に比例して上昇しているわけではないのです。事実、ハンセンが示したデータを見ましても、一九四〇〜七〇年代は気温が下降し続け、三〇年前は、世界中が「地球寒冷化」で騒いでいたのです。実際、「地球温暖化」と比べれば「地球寒冷化」の食物などに与える影響は極めて深刻です。
 それでは「気温変化」の主因は何かといますと、それはほぼ一〇〇パーセント、太陽活動の変化でしょう。そして、その太陽活動は、いま述べましたように周期的です。したがって、地球の気温も周期的に変化することになります。
 さらに、ついでに、「地球温暖化」の議論の中で、常に問題になります「温室効果」と「温室効果ガス」について述べておきましょう。
 まず「温室効果」についてです。
 人工的な環境下で野菜や果物、花などを栽培する温室はガラス、アクリル、ビニールなどで囲まれた閉鎖空間です。この「囲い」は太陽光の中の可視光線(いわゆる"虹の七色"の光)に対しては透明ですから、温室内部に達して温室内の空気や土や野菜などを暖めます。しかし、この「囲い」は、温室内で発生した熱(赤外線)に対しては不透明で、熱を吸収して、その一部を温室内に送り返すという性質を持っています。つまり、温室内にこもった熱は外に逃げにくく、この結果、温室内部の温度が外部より高くなって、野菜などが生育しやすくなるのです。つまり、このような「囲い」の効果が「温室効果」です。
 地球を囲む大気層の中のある成分は、ちょうど温室の「囲い」に相当し、地球に到達した太陽エネルギー(熱)を宇宙空間に逃げにくくする「温室効果」を持ちます。ちなみに、大気の九九パーセントを占める酸素と窒素は「温室効果」をほとんど持ちません。
 このような温室効果を持つ大気層のある成分というのは水蒸気(HO)、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、オゾン(〇)、窒素酸化物(NO)、フロン(フッ素、塩素、炭素の化合物)などで、これらをまとめて「温室効果ガス」と呼ぶのです。
 もし、大気中に、これらの温室効果ガスが含まれなかったら、地球の表面温度はマイナス一八℃ほどになり、平均気温は三〇度ほど低下するといわれています。
 近年、二酸化炭素という「温室効果ガス」が「地球温暖化」の元凶のようにいわれていますので、温室効果ガスそのものが「悪者」扱いされているのですが、現在の地球に生存する、私たち人類を含むすべての生物は、温室効果ガスのお蔭で平穏な生活をさせてもらっていることを忘れてはいけません。温室効果ガスは地球上のすべての生命を育む不可欠の重要な物質なのです。
 さて、いま列挙しましたさまざまな温室効果ガスがそれぞれ同程度の温室効果を持つか、といえばそうではありません。じつは、温室効果のおよそ九〇パーセントは水蒸気の貢献といわれています。また、大気中に占めるCOの割合は、水蒸気の一〇〇分の一ほどの〇・〇三五パーセントです。このようにわずかなCOの増加が「地球温暖化」の主因になり得るのでしょうか。私は、さまざまな科学的見地からも歴史的事実からも断じてあり得ないと思います。もちろん、地球の気温が上昇すれば、水(特に海水)中のCOの大気中への放散が増加しますので、大気中のCOは増加しますが、COの増加が地球の気温を上昇させるのではありません。地球の気温の増加が大気中の二酸化炭素CO濃度を増加させるのです。
 気温の変化を含め、地球の気候変化のほとんどぱ太陽活動に依存すると考えるのが妥当でしょう。
 だからといって、もちろん、私はCOの排出に無関心でよいというのではありません。
 有限の化石燃料の消費を極力減らし(そのことが結果的にCO排出量の低減につながります)、地球環境の保全に努力することは現代人が地球の将来のために負わされた当然の義務であります。
 しかし、「COの増加→地球温暖化」のような科学的根拠のない「説」が暴走し(事実、すでに、かなりの勢いで暴走しています)、「京都議定書」や「CO排出権売買」というようなものが、「国際政治の道具」として堂々とまかり通るとすれば、地球環境保全に禍根を遺すばかりではなく、日本のような、本来の外交理念も外交手腕も持たない「お人好しの国」が、つまり日本人がアメリカや中国に代表される海千山千の諸外国の「COビジネス」「環境ビジネス」に食い潰されてしまうであろうことを私は恐れるのです。
 マスコミの報道を鵜呑みにし、マスコミに振り回されることなく、ものごとを科学的に考える習慣をつけることも、さまざまな勉強の大切な目的の一つです。
 また、マスコミによって流されるニュースの表層を追うだけではなく、その根底にある"根拠"を調べてみることも、さまざまな勉強を、具体的な形で楽しくさせる大きな要素です。勉強は「教科書」の中だけに留まっていてはあまり面白くも楽しくもありませんが、それが私たちの実生活に結びつく時、面白さも、楽しさも格段に増すものなのです。


文系?理系?―人生を豊かにするヒント (ちくまプリマー新書)

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目次
はじめに


文科系と理科系
文理系と工経系
文理芸融合
第1章 何のために勉強するのか

何のために勉強するのか
「筋道立てて考える」ということ
科学的態度
"知識"と"智慧"
"考える"ということ
心に木を植える
求められる文系の素養

第2章「数学、物理が苦手だから文系へ」という人に


数学は面白い!
数の恩恵
さまざまな数学
画期的なゼロの発見
自然現象と数式
数学は「外国語」の一種
物理の第一歩は感動すること
身近な物理
交通信号「止まれ」はなぜ赤か
なぜ夕焼けは赤いのか?
誰でも物理が好きになれる
第3章 ものの見え方と見方

ものが"見える"ということ
可視光の範囲は偶然か?
背後霊?
植物の葉はなぜ緑色か
タイム・マシンは可能か
肝心なことは目に見えない
ものの見え方、考え方は相対的
"お化け煙突"の教訓
結晶が教えてくれること
素材が同じでも
ありふれたものでも
"不純物"の効用
みんなちがって、みんないい
複数の"ものさし"を持つ
"考える"脳をつくる
第4章 つまらない勉強が面白くなる

こんなに面白い日本史と世界史
二酸化炭素で地球が温暖化
"奈良の大仏"の銅
花火
二進法とデジタル化
生物に学ぶ
擬態
本当は面白く楽しい微分積分
あとがき
参考図書