雪冤 - 大門剛明

第29回「横溝正史ミステリ大賞」受賞作。
本作はタイトル通り「冤罪」を主眼としたミステリ小説だ。文章は拙いが、意欲と、訴えたいことだけは伝わってきた。テーマが大きいし、一応、最後まで読めた。魅力的なのは、イアン・ランキンや西村京太郎の小説と同じで、実際の土地でストーリーが展開する点だ。地図をたどりながら場面を想像するのは、読書の楽しみのひとつだ。本作は京都が舞台である。

拙い点とは、具体的に指摘すれば以下の点だ。

  1. 書き癖
    この著者は「思い」と「支配」という言葉を頻繁に使う。あまりに使い過ぎるので読んでる途中で鼻につくことがある。もっと文章の幅を広げた方が良いと思う。
  2. 二重敬語
    巷には二重敬語があふれているかもしれないが、小説の描写にこれを取り入れる必要はない。フィクションの中では正しい日本語を使うべきである。
  3. 奇妙な日本語
    著者はよく「そんなまま」という日本語を使う。小生は生まれてこのかたこの言いまわしを目にしたことがない。日本語として適切だとは思わないので、「そんなまま」ではなく「そのまま」と書くのがよいと思う。


本作は、映像化され、9月29日にテレビ東京で放映された。見た方はすぐ気づかれたと思うが、原作の内容が大幅に削られていた。大きなところでいえば、"Soon-ah will be done"は歌われかったし、「メロス」の劇もなかった。どんでん返しは1回のみ。映像化された作品は、結果的に「内容が薄い」という印象だけが残った。映像化作品は見たが本書は読んでいない、という方には、本書を読んだ後で著者の力量を評価してもらいたいものである。

雪冤

雪冤

序章 あおぞら合唱団
第一章 逃げた小鳥
第二章 メロスと人質
第三章 拘置所セリヌンティウス
第四章 I wan' t'meet my father
第五章 友との約束
第六章 処刑台の前で
終 章 ディオニス死すべし
参考文献
選評