安部公房を読む - 苅部直

今号の『群像』誌で新しい連載(「安部公房を読む」苅部直)が始まった。
気鋭の政治学者による安部公房読解だ。これがどのようなものになるか非常に楽しみだ。第一回目のテーマは「夢の不安」。『笑う月』を中心に論を進めていく。まず氏が安部公房作品に初めて触れたきっかけから話は始まる。氏は『笑う月』の新聞広告(昭和50年11月の読売新聞)に載っていた丸い顔のイラストを『笑う月』のものだと記憶していたが、35年ぶりに見返してみると、それは『笑う月』とは全く関係のないイラストだったことが判明する。ところが、この、作品との出会い方がそもそも安部的だと説く。なぜなら安部作品の特徴が『箱男』に代表されるような、コラージュ的手法だからだ。そして、稿はメインの論点へと進んでいく。安部公房が旧制成城高校に通っていた頃愛読していたハイデッガーの『存在と時間』(寺島實仁訳)から第51節が引用される。そこでは「恐怖(Furcht)」と「不安(Angst)」の違いが述べられている。『笑う月』で安部は「笑う月」に追いかけられる夢をよく見ると告白し、なぜかそれが夢の中では異常に怖いと説く。安部はこの「笑う月」の怖さを表現するにあたって、これを(ハイデガーの述べるところの)「恐怖(Furcht)」ではなく「不安(Angst)」として表現しているのだ、と苅部氏は言うのである。

参考文献は単行本の刊行時に掲載する旨の記載があった。今回は鳥羽耕史『運動体・安部公房』に言及していた。

小生が安部公房を夢中で読んだのは高校生の頃だ。この連載を読んでまた読みたくなった。

群像 2011年 01月号 [雑誌]

群像 2011年 01月号 [雑誌]

笑う月 (新潮文庫)

笑う月 (新潮文庫)


2015.11.21 追記
連載をまとめた単行本『安部公房の都市』が刊行されている。

安部公房の都市

安部公房の都市