FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 - ジョー・ナヴァロ、トニ・シアラ・ポインター

<郷に入れば(フランスでは)……>
 模倣と同調が世界を変えることもあると、歴史が教えてくれる。一七七八年から一七八五年までアメリカ初のフランス大使を務めたベンジャミン・フランクリンは、アメリカ独立戦争にあたってフランスから同盟の約束を取り付けるという大きな任務を負った。フランスは、世界最強の海軍をもつイギリスと戦争したくなかったのだから、これは容易な仕事ではなかった。それでも貧困から(一七歳で本当の一文無しから)身を起こしたフランクリンは、この任務にふさわしい人物だった。フランクリンは単なる発明家で政治家、出版人で風刺家で著作家で科学者なのではなく、おそらくその時代の最も偉大な観察者でもあり、そのことのほうが重要だ。彼はそこから数々の発明品――フランクリンストーブ、遠近両用眼鏡、避雷針、柔軟性のある尿管カテーテルなど――を生み出した。そして彼は同じような情熱をもって人間についても学んだ。短い時間でフランスに強い印象を与え(今日でも難しい仕事だ)、ひとり立ちしようとしている芽生えたばかりの民主主義と、同盟を結びたい気持ちにさせなければならなかった。
 さいわい、本人および同時代の人々が書き残した資料から、フランクリンの戦略を証明することができる。彼はすぐにフランス人の礼儀と様式を真似ることにし、かつらをかぶり、顔に白粉を塗り、フランス人と同じ衣服を身につけた(アライグマの毛皮で作った帽子はとっておき、アメリカ風を味わいたい人のために誇らしげに飾っていた)。ふさわしい馬車まで注文して、その馬車に乗って通りを走った。まもなく彼は、権力のある人々に受け入れられていく――そしてさらに大事だったのは、椎力者の耳元でささやく人々(影響力のある女性たちのこと)によっても受け入れられたことだ。フランクリンがフランス人社会の規範を模倣したのは、成功を手にするには自分たちに最も大きな利益をもたらす者を真似なければならないことを、よく理解していたからだった。
 一七七八年、ふたり目の外交官としてフランスに到着したジョン・アダムズは、フランクリンがフランス人社会の暮らしと服装にすっかり「誘惑」されてしまったのを見て、愕然とした。アダムズは、自分はアメリカ人だからとこれに加わることを拒否し、フランス風の客間(サロン)での会話や、服装や物腰を批判した。そしてフランクリンを非難しながらアメリカに戻っていった。やがて包括的な条約交渉の任務を負ってふたたびアダムズがフランスに派遣されたが、フランス側は――前回のアダムズの振る舞いと順応性のなさを快く思っていなかったために――「ノン!」とばかりにそれを拒否し、指名を承認しなかった。代わりに交渉にあたったのは、社交による外交の複雑さにうまく対応できるフランクリンだった。
 フランス人がフランクリンを認めるようになったのは、フランクリンがフランス人とその文化を認めたからだ。フランス人はフランクリンといて快適に感じ、いっしょに仕事をすることができた。模倣によってアダムズのなしえなかった成功を手にしたフランクリンは、共感のコミュニケーション経路を切り開く能力をもっていたことを実証しており、それは成功にとって不可欠な要素のひとつになる。フランスの同盟と、ひいてはアメリカが手にしたイギリスからの自由は、フランクリンと彼のノンバーバルに対する理解に負うところが大きかったのだ。

(133-134頁)


FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

第1部 言葉を用いないコミュニケーションの基本

今すぐ使える力
快適/不快のパラダイム―言葉を用いないコミュニケーションの基礎
体はどのように話すか
第2部 言葉を用いないコミュニケーションの応用
行動の威力
外見の威力
第一印象のアピール―組織がまわりからどう見えるかを考える
状況のコントロール―最高の結果を生む成功事例
感情のコントロール
ウソについて

ジョー・ナヴァロ
Joe Navarro
25年にわたってFBIスパイ防止活動特別捜査官を務め、ノンバーバル・コミュニケーション専門のスーパーバイザーとして活躍。セント・レオ大学やFBIで、非常勤の講師を務める。著書に『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』(西田美緒子訳、河出書房新社)がある。


トニ・シアラ・ポインター
Toni Sciarra Poynter
ライター・編集コンサルタント。出版業界で25年以上のキャリアをもつ。