食品への汚染について

 食品への汚染の移行
 内部被曝の場合には、どういう食品がどのような汚れ方をするのかというと、図III-6「植物の汚染の道すじ」の植物の場合が典型的です。まず葉の上に直接放射能が落ちた場合です。チェルノブイリ事故の直後にホウレン草が非常に汚れたのはこれです。次に、汚れた地面から、植物が根から吸収して放射能が入る。この二つの汚れ方は少し時間が経ってからです。



 しかし、もう少しあとのことを考えると、地面からのほうが問題です。セシウムという放射能は(たいていの放射能がそうですが)、地面の表面にくっついてなかなか離れてくれません。ですから、ひとつのモデルとして図III-7「植物中の放射能の変化のようす」のようになります。



 最初に葉にくっついた放射能は、雨とか風で少しずつ減っていきます。放射能には半減期がありますから、その影響もあります。だんだん風化によって減っていくわけです。次に根から少しずつゆっくりと吸収されて、ある時間が経つとしだいに根からのほうが優勢になってきて、食物の実に集まる放射能はこの両方からくるものの合計になります。
 最後の「飽和値」というのは、地面のある汚れに対してその植物がとりこんでしまう放射能の量は最大値までいくと止まる、と考えられている値です。ですから、葉物の野菜の場合には、初期が問題です。葉物の野菜は長く畑にはえていないので、最後まで根が放射能を吸収することはありませんから。穀物の場合、むしろ根から来る放射能のほうが多いですから、違ってきます。汚染した食品は、最初は葉物の野菜が問題です。
 ただ、次年度に生えた葉物の野菜も、今度は根からの吸収の分が効いてくることがあるので、汚染は続くわけですが、葉物の野菜は、そのまま牛や羊などの家畜のえさになります。それらの家畜からミルクやチーズ、肉がつくられます。
 放射能がどんなところにいくかはそれぞれ違いがあります。人体においてもそうですし、動物を飼う場合においてもそうです。チェルノブイリで問題になっている放射能の場合、セシウムは脂肪類の方には行きにくいということがあります。例えば、セシウムが入ったミルクからチーズやバターを作ると、バターの方にはほとんどセシウムは行かず、チーズの方に行くということがあります。それから、肉にもよく集まります。人間の体にも同じようなことがあります。セシウムは筋肉や生殖腺に、そして全身に集まります。それぞれ放射能の化学的性質に応じて集まるところは違ってきます。


 生物学的半減期
 それからもう一つ、混乱がよくあるので、話しておいた方がよいことがあります。放射能はそれぞれ体の中にたまるわけですが、体の中にたまるたまり方は、前述した半減期とは少し違います。
 先ほど述べた半減期は、物理的半減期と言って、放射能自身が固有に持っているものです。半減期が長くても、体の中に長く止まらないで、すっと出てくれるならば、害が少ないということがあります。それがいいことかというと、そうでもありません。例えば、すぐ排泄されて便や尿になって外に出ても、そこで放射能が消えてしまうわけではないので、やっかいなのです。チェルノブイリの事故の後、ヨーロッパでいちばん問題になったことは、活性汚泥(下水処理してできた汚泥)がものすごく汚れていたことです。ヨーロッパでは汚泥を肥料に使っているのです(図III-5参照)。肥料が放射能をもってしまったから、大変なことになりました。



 東京でも、下水処理場に行くと活性汚泥がかなり放射能を含んでいます。なぜかというと、皆さんは経験あるかどうかわかりませんが、医者へ行くとヨウ素を飲まされたり、テクネチウムを飲まされたりします。放射性物質を飲まされて検査をするわけです。検査が終わって、自分の家へ帰ってトイレへ行くと便や尿となって放射能が出るわけです。それが下水処理場の汚泥になっていて、働いている人が被曝することがある、という東京都の古い調査があります。その評価を求められたことがありますが、けっこう被曝するのです。ヨウ素の被曝が多いという、ウソみたいな本当の話です。


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