日本の農業が必ず復活する45の理由 - 浅川芳裕


38 なぜオランダは
  世界最強の農業国と呼ばれるのか


 世界の農業界で、オランダ農業の競争力の高さを知らない人はいません。
 オランダは米国に次ぐ世界2位の農産物輸出国です。その輸出額は790億ドルにも及び、日本の農産物輸出額の30倍も稼ぎ出しています。
 ブラジルやオーストラリアのような広大な土地があるわけでもありません。オランダの面積は九州とほぼ同じ4万平方キロメートルの小国です。農地面積にいたっては世界のわずか0.02%しかない中、農産物の輸出額は世界シェアの10%近くを持っています。農家一人当たりの外貨取得額(輸出額÷農家人口)は14万600ドルで、断トツ世界1位です。
 この地位を築いているのがわずか7万7000軒のオランダ農家です。まさに少数精鋭の農家が世界の農業大国と伍して勝ち抜いているのです。
 オランダと言っても、チューリップくらいしか思い浮かばないかもしれません。何をそれだけ輸出しているのでしょうか。
 たしかに、チューリップに代表される花や鉢植え、観葉植物の輸出はオランダが世界の半分以上を占めています。野菜ではトマト、ズッキーニ、パプリカが代表的な輸出品目です。こうした高付加価値の作物を作る園芸施設、ビニールハウスならぬ「ガラスハウス」の世界の4分の1(1万1000ヘクタール)がオランダに集中しています。特にオランダ西部がその中心地で「グラスシティ」と呼ばれています。
 栽培が難しいジャガイモの種イモでも世界シェアの6割を占め、卵、トマトでも輸出額で世界1位となっています。チーズではフランスに僅差で世界2位です。
 なぜこんなにオランダ農業は強いのでしょうか。競争力の源泉は生産性の高さにあります。とくに単位面積当たりの収穫量(単収)の高さが群を抜いています。
 トマトを例にとれば、1ヘクタール当たり48トン。ドイツの2倍、フランスの3倍、露地栽培の多いアメリカの6倍の単収をあげています。日本と比べると8倍の差です。日本はトマトの規格が厳しいため単純比較はできませんが、オランダの単収が驚異的なのはたしかです。
そのすごさは単収の伸長率で見ても分かります。過去30年で日本は10%しか伸びていないのに対し、オランダの増収率は400%です。まだまだ成長途上なのです。
 増収の秘密の一つに農業界と工業界の連携があります。作物の生育には二酸化炭素が必要です。自然状態よりさらにCO2濃度を上昇させると、光合成を促進させ作物の成長と収量が増進されます。ここで、工業界の登場です。石油化学工場から排出されるCO2をパイプラインで運び出し、トマト・ハウス団地に供給するのです。日本でも農業用のCO2ボンベや発生装置は売っていますが、パイプラインは効率が良く一石二鳥です。工業界はCO2の回収・隔離事業が創出でき、トマト業界は低コストで活用できます。
 オランダの高い単収は、最新鋭の施設で育てる野菜に限りません。野外で作るジャガイモも同じです。オランダ人は畑1ヘクタールでジャガイモを50トン収穫します。日本人は平均30トンほどですから、同じ畑でも倍近くとれるのです。
 その理由をオランダ・ジャガイモ生産者協会の理事に単刀直入に聞いてみたことがあります。
「どうしてオランダ人はそんなにジャガイモを作るのがうまいんですか」
答えは意外なものでした。
「オランダ人には記録する文化がある。起こったこと、実行したこと、観察したことをそのまま書き留めるという習慣だ。ご存知、東インドで植民地会社を運営したオランダ人は・・・・・・」
「それがジャガイモの栽培と関係があるんですか?」と遮ろうとすると、人の話は最後まで聞けとけわんばかりに、理事は続けました。
「・・・複式簿記を世界で初めて本格的に使用した。ビジネスという複合的要因をある一定のルールのもとに数値化したもの。これが企業会計、つまりは事業活動を隅々まで説明可能にするシステムの起こりだ。オランダの東インド会社は毎年、出資者への利益の報告と配当を義務づけた最初の法人だった。高い利益を還元し続けることでのみ、新たな出資を得られる今では当たり前の仕組みを発明したのだ。それから、帳簿を必死につけながら、

日本の農業が必ず復活する45の理由

日本の農業が必ず復活する45の理由

1 放射能で日本の農業はどうなるのか
2 被曝野菜とどう向き合えばいいのか
3 東日本大震災による農業の被客状況は?
4 被災地の農家はどうやって再出発しているのか
5 日本は農業大国って本当?
6 農家っで誰のこと?
7 農家の高齢化は深刻か
8 すべての職業の中で農家の数が一番減っているのは本当か?
9 農業ビジネスってどんなビジネス?
10 農家の嫁不足の実態は?
11 食料自給率40%は大丈夫なのか
12 大豆の自給率4%は大丈夫なのか
13 戸別所得補償制度は必要か
14 減反って何? 正しい政策なのか
15 田植えは無くなるのか
16 ササニシキvs.コシヒカリの行方は?
17 花粉症緩和米って何?
18 日本で一番成長している作物は?
19 野菜の値段はなぜ乱高下するのか
20 規格外野菜はどこに行ぐのか
21 中国野菜は安全か
22 遺伝子組換作物は体に悪いのか
23 なぜ小麦の値段は上がっているのか
24 なぜメロンの消費は減ったのか
25 フードマイレージつて何?
26 バーチャルウォーターつて何?
27 食料安全保障は大震災の際どう適用されたのか
28 民主党vs.農協はどうなっているのか
29 農業の自由化はなぜ必要なのか
30 TPPの言いだしっぺはニッポン?
31 TPPに参加するメリットつて何?
32 TPP参加でコメヘの影響はどれくらいあるのか
33 世界で一番生産量が多い農畜産物は?
34 ジャガイモはなぜ世界中で人気があるのか
35 世界は水不足で農業生産が減っていくのか
36 世界的な食料危機はくるのか
37 農業大国フランスと日本はどこが違うのか
38 なぜオランダは世界最強の農業国と呼ばれるのか
39 砂漠で農業ができるって本当?
40 日本の農家は海外に進出できるか
41 世界で活躍する日本の農系企業は?
42 農業は天候リスクを超えられるか
43 農法って何?
44 口蹄疫はなぜ防げなかったのか
45 どうすれば日本の農業はもっと強くなるのか