家政婦のミタと1Q84の青豆

日本テレビのドラマ『家政婦のミタ』の主人公(三田灯)の口癖と、『1Q84』の青豆の口調が、若干かぶる点に気がついた。それともうひとつ、二人が「ずいぶん重いもの」を抱え込んでいる点も似通っている。

 老婦人はしばらく黙っていた。それから質問した。「あなたはこれまでどこかの男を攻撃したことはありますか? ただ苦痛を与えるというだけではなく、意図的に傷を負わせたことは」
あります」と青豆は答えた。嘘をつくのは彼女の得意分野ではない。
「そのことについては話せますか?」
 青豆は首を小さく振った。「申しわけありませんが、簡単に話せることではないんです」
「けっこうです。もちろん簡単に話せるようなことではないでしょう。無理に話す必要はありません」と老婦人は言った。
 二人は黙ってお茶を飲んだ。それぞれに違う何ごとかを考えながら。
 やがて老婦人が口を開いた。「でもいつか、話してもいいという気持ちになったら、そのときに起こったことを私に話してもらえるかしら?」
 青豆は言った。「いつかお話しできるかもしれません。できないままに終わるかもしれません。正直なところ、自分でもわからないのです」
 老婦人はしばらく青豆の顔を見ていた。そして言った。「興味本位で尋ねているわけではありません」
 青豆は黙っていた。
 「あなたは何かを内側に抱え込んで、生きているように私には見えます。何かずいぶん重いものを。最初に会ったときからそれを感じていました。あなたは決意をした強い目をしています。実のところ、私にもそういうものはあります。抱えている重いものごとがあります。だからわかるんです。急ぐことはありません。しかしいつかはそれを自分の外に出してしまった方がいい。私はなにより口の堅い人間ですし、いくつかの現実的な手だてももっています。うまくすればあなたのお役に立てるかもしれません」


1Q84 BOOK 1

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