「弱点を探す」という手口

1Q84 BOOK 2』(村上春樹著)を読んでいたら、リトル・ピープルが相手の「弱点をみつけ出し、」そこを攻撃するという記述に目がいった。最近、この手の方法を頻繁に見かけたからだ。

 男は続けた。「逆に、もし君がここでわたしを殺さなかったとする。君はこのままおとなしく引き上げる。わたしは生き延びる。そうすればリトル・ピープルは、わたしという代理人を護るために、全力を尽くして天吾くんを排除しようと努めるだろう。彼のまとった護符はまだそれほど強くはない。彼らは弱点をみつけ出し、何かしらの方法をもって天吾くんを破壊しようとするはずだ。これ以上の抗体の流布を彼らは許容できないから。そのかわり君の脅威はなくなり、故に君が罰せられる理由はなくなる。それがもうひとつの選択肢だ」

この「弱点をみつけ出し」、相手を「破壊」する手口は、使い方によっては、犯罪者の道具にもなれば、成功者のツールにもなり得る。犯罪者が用いた例は、たとえば、北九州監禁殺人事件の加害者Mが思い当たる。

 1997年6月、妻のRさんが毎晩外出していることに気を揉んだKさん(O家の婿養子)は、彼女を問い詰めた。Rさんは渋々、姉のSが犯罪者であることを打ち明けた。
 元警官であるKさんはそれを聞き、「Mが義姉をたぶらかしたに違いない」として、次回は自分も同行すると言い出した。
 しかしこれもやはり、取り返しのつかない誤りであった。
 Mは一目でKさんの性格を見抜いた。公務と農協しか社会経験のない純朴さ、婿養子であることのわずかな心の引け目、隠された男のプライド。Mは彼に酒を飲ませ、
「あなたが跡取りなのに未だに土地の名義は先々代さんらしいじゃないですか。バカにされてるんですよ」
「O家の中じゃあなた、単なる種馬扱いだと言うじゃありませんか、人をなめるのもいい加減にしろという感じですねえ」
「Rさんは意外に男癖が悪いそうで。ZさんといいO家の女性は発展家の血筋のようですな」
 とさんざん吹き込んだ。Zの相手とはもちろんM本人のことなのだが、これは実際地元でも相当噂になっていたらしい。そしてRさんとも、Mはもう関係を持っていた。
 赤子の手をひねるようにMに乗せられてしまったKさんは、
「あなたがお人よしなのをいいことに、こんなにコケにされ続けて腹がおさまらないでしょう。あんな人たちは殴ってやったってバチは当たりませんよ」
 とMの言葉のままに、O家の人々を順繰りに殴ったという。もちろん酔いが醒めてしまえばただちに後悔し、自己嫌悪することになるのだが。
 こうしてやすやすとMのかけた罠に捕らえられたKさんは、二人の子供までもMに預けてしまうことになる。そしてこの直後あたりから、MのO家一同への「通電リンチ」も始まった。


(※個人名は引用者が伏せた)

http://www8.ocn.ne.jp/~moonston/ikka.htm


逆に成功者がこの方法を利用した例は、たとえば伊藤喜之の『バカでも年収1000万円』に見える。

 「この担当者が異動になったり、機嫌が悪くなったり、気が変わったりしたら、置いてもらえなくなるかもしれない。そうなったら、DJイベントは終わりだ……」


 そう思った僕は、「相手に捨てられない存在になる必要がある。そのためには、相手にとって『得になるもの』を提供したらどうか」と仮説を立てました。
 相手の得になるものを提供するには、まず、相手の「弱点」を知らなければいけません。
 いよいよ「弱点レーダーチャート」の出番です。


 彼らの「弱点」に目を向けてみると………、ありました、「弱点」が。

 タワーレコードはCDのタイトル数が非常に多い。ですが、僕のDJイベントで流しているような、「小さなレコード会社のマニアックなCD」はなかったんですね。
 そこで僕は、「インディーズだけど、クラブで人気のブッちぎりにカッコイイ曲」のサンブルCDを1枚だけ持参して、タワーレコードの担当者に聴いてもらいました。
 すると担当者は、「これいいね!」と気に入ってくれて、お店に20枚置いてくれることになったんです。


 CDはすぐに売れて、結果的には約300枚も売れました。僕はタワーレコードにとっても小さなレコード会社にとっても「相手が得になるもの」を与えることかできたわけです。