薩摩治郎八とノエル・ギャラガー

鹿島茂蕩尽王、パリをゆく―薩摩治郎八伝 (新潮選書)』を読んでいたら、男と女のボクシング試合の描写が薩摩治郎八の自伝『せ・し・ぼん―わが半生の夢』から引用されているのを目にした。これが最近観た、Noel Gallagher's High Flying Birds の "Dream On" の PV を思い出させた。この PV を観て、男と女のボクシングなんて面白いことを考えたな、と思っていたら、それほど珍しい発想ではないことが、薩摩の自伝の件の描写に出くわして、わかった。最後に接吻をするのが男か女かという違いは時代背景を反映しているのだろうかとふと思った。

「相手をするトウトウクス女選手はこの時ぞとばかり、海水着一枚で登場し、ゴーンとゴングが鳴るや否や、海水着の曲線美にふと見惚れていた私の鼻先にアッパーカットを喰わした。『一、二、三、四、五、六、七、八……』はっと気付いてあたりを見ると、猿また一枚でリングの真中に伸びているのは私である。『九』の一声に『何クソ』と満場の歓声を浴びて立ちあがったがブーンと再び一撃を喰わされて、私は四ツン這いになってしまった。こんな筈ではなかったがと思ったが、今更どうにもならない。しかも相手は女である。『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十』私はわざとゴングの鳴るのを待ち受けて飛び上がりさま相手の両頬に降参のキッス。この珍試合は大喝采裡にケリがついた」(同書)