Carol Gluck 女史のおすすめ本

月刊「みすず」(2012年1・2月号)で「2011年読書アンケート」を実施していた。アンケート回答者(全148名)は、2011年を振り返って各々おすすめの書籍を紹介している。

その中で、日本史の Carol Gluck(キャロル・グラック)女史が紹介したうちの1冊が気になった。

2 Sönke Neitzel und Harald Welzer, Soldaten: Protokolle vom Kämpfen, Töten und Sterben, S.Fischer
 第二次世界大戦の残虐行為に関しては、まず戦犯を裁く裁判が執り行われ、後に被害者の声が公になり、最近になって加害者を理解しようとする動きが出てきた。「普通の人びと」がなぜ、ありとあらゆる道徳観に反する大規模な暴力行動において市民の殺人や強姦に至ったのであろうか。この問いは、ドイツでは長らく、反ユダヤ主義やナチズムによって説明されてきた。本書は、人間は期待に添うように行動するものである、という、近年になって光があたってきた証拠を裏付けるものとなっている。戦争においては、人殺しが期待されるのだ。
 「兵士――戦闘、殺人、そして死の記録」は、一九四〇年から一九四五年にかけてイギリスとアメリカの捕虜収容所で盗聴された、一五万ページに及ぶドイツ人捕虜の会話記録を基にした研究である。一〇年前に資料を発見した軍事歴史家ナイツェルと、ポーランドやその他で起こった、ナチ警察予備大隊によるユダヤ人射殺についての著作のある社会心理学者ウェルザーが共同執筆した。
 本書は、人間の状況判断に関する我々の理解を揺さぶる分析となっている。与えられた「視点」(frames of reference)に順応し、状況変化にあわせて「変わる基準」(shifting baselines)とともに道徳観も変わる。ベトナムにおいてもイラクにおいても、戦争心理に大差はないと著者は主張するが、同時にドイツ軍の残忍さと平常性も指摘している。ドイツでは、本書は二〇一一年で最も重要な出版物の一つとみなされることもある。


Soldaten: Protokolle vom Kaempfen, Toeten und Sterben

Soldaten: Protokolle vom Kaempfen, Toeten und Sterben