金融危機を逆手に荒稼ぎ、米ヘッジファンド70億ドル稼ぐ

 投資意欲が持ち直した今年、最も稼いだ人物の一人はヘッジファンド運用会社アパルーサ・マネジメント社長のデビッド・テッパー氏だろう。


 複数の関係者によると同社は今年70億ドル(約6300億円)を稼ぎ、うちテッパー氏自身は25億ドルを手にする見込みだという。


 2月から3月にかけて、テッパー氏はバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)やシティグループなど、多くの投資家が手放そうとした紙くず同然の銀行株を買いあさった。クライアントも友人も、非常に危険な賭けだとして、同氏の動きに賛成する者は誰もいなかった。


 だが、この賭けは吉と出た。市場の回復でテッパー氏の会社は12月初めまでで約120%のリターンをあげて同社の運用額は120億ドルに達し、世界最大級のヘッジファンドとなった。


 昨年の打撃からはおおむね立ち直ったヘッジファンド業界の中でも、このリターンは突出している。


 中流家庭に育ったテッパー氏は、80年代後半にゴールドマン・サックス社でジャンク株売買に携わった。ジーンズにスニーカーといういで立ちで通勤する同氏は、自身の成功をあまり大げさにとらえていない。


 近年の氏の勝因には、例えばアジア通貨危機後の韓国株を大量に買うなど、人気の凋落した投資先を狙って稼ぐという手法があった。


 2009年は資産の3割以上をキャッシュとする慎重な投資方針で始めたが、市場の回復を見込む楽観的な考えは変わらなかった。2月10日に財務省が金融機関への公的資金注入を発表した際、銀行が国有化されるのではないかという多くの投資家の憂慮に反し、テッパー氏は銀行に政府保証がついたととらえ、銀行株や銀行の発行する債券の買い入れを指示した。


 財務省の発表当日にはダウ平均が5%も下がり、続いて銀行株も値崩れしていくなか、シティグループの株価は3月5日、ついに1ドルを切った。


 経済指標のとめどない悪化に、テッパー氏率いるファンドの経営陣もさすがに不安を隠せなかった。だがテッパー氏は「絶対におかしい。政府が発表を反故にするはずはないのに、みんなパニック状態だ!」と、役員と衝突したことを振り返る。


 同氏は政府の景気対策と低金利政策は景気回復につながると主張し、シティグループのような銀行が国有化される確率は20%しかないと判断していたという。


 債券はやめた方がいいという役員の意見も振り切り、テッパー氏の部署は債券や優先株も含めた株に、数週間にわたって投資した。その前にはすでに政府が巨額の公的資金を投入していたが、株価の下落には歯止めがかかっていなかった。


 アパルーサ・マネジメントの運用資産は3月中には10%減となり、証券マンに探りを入れたテッパー氏は、投資環境は非常に悪く、積極的に買っている主要な投資家は同社ぐらいだと教えられたという。


 だが3月末までにはシティグループの株価は3倍にはねあがり、テッパー氏所有の他のジャンク債も上昇していた。様々な銀行が増資を行うなか、同氏は10億ドル以上を投じてさらに株や債券を買い増した。


 今夏、テッパー氏はシティグループとバンカメの株式だけで10億ドルの利益をあげ、全体の利益は45億ドルに達した。今年1月からすると70%増となる。


 これまでの四半期ごとの傾向を分析した同氏は、商業用不動産担保証券が売られ始めていることに気づいた。これまでこうした分野には手を出していなかった同氏だが、15%の利回りが期待できる安全性の高そうなものは魅力的と判断した。結果、氏の部署は10億ドル以上の資金を、時間をかけて商業不動産担保証券に投資した。


 テッパー氏は、景気が回復すれば債券の利回りで大きな利益を得られると考えている。

記者: Gregory Zuckerman
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