ザ・タートル 投資家たちの士官学校 - マイケル・コベル

ザ・タートル 投資家たちの士官学校

ザ・タートル 投資家たちの士官学校

彼らは何を教わり――
1億5000万ドルを稼ぎ出したのか?

1980年代のシカゴで誕生したトレーダー養成学校「タートル」。それは、「金儲け(=トレーディング)を教えることが可能かどうか?」を確かめる実験工房だった。全米から集まった素人投資家たちは、いったい何を学び、全米屈指のトレーダー集団へと成長し、億万長者(ミリオネア)への階段を駆け上ったのか?
「タートル」の主宰者にして伝説的トレーダー、リチャード・デニスとウィリアム・エックハートの素顔と実験の全貌を描いた、異色ノンフィクション。

本書の出色は、なんといっても「第五章 ルール」だろう。ここを読まずして本書を閉じることは何人たりともできない。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その一)
投資判断を下すたびにエッジを計算すべきだ。エッジがわからないまま"賭け"をしてはならない。正しい判断を下す確率が問題なのではない。正しい判断を下したときの"規模"が問題なのだ。

エッジとは、E =(PW×AW)−(PL×AL)で表す式のこと。
PW:勝つ確率
AW:勝つ場合の平均利益
PL:負ける確率
AL:負ける場合の平均損失

自己資金で取引する場合のアドバイス(その二)
価格を意思決定に使うという概念がはっきりしたのだから、テレビを見るのはもうやめよう。金融関連のニュースも必要ないだろう。市場の始値、高値、安値、終値を記録するだけでいい。これらのデータだけあれば、あらゆる投資判断を下せるはずだ。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その三)
"売りから入る(ショート)"という発想を受け入れなければいけない。下落相場から利益を得ることを楽しむのだ。タートルたちにとって、ショートという取引は珍しいものではない。利益が得られると思えば、迷わず売りを仕掛けろ。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その四)
価格の"ブレイクアウト"というのはタートルの用語で、過去の一定期間において相場が高値または安値を更新したことを意味する。仕掛けに二〇日と二五日以外の値を使うこともあるのだろうか?答えはイエスだ。トレーディングのためにどういう値を使うかは、常に主観的な判断である。これらのルールを紙上またはトレーディング用ソフトウェア(wealth-lab.comまたはmechanicasoftware.comなど)でテストして、その動きをつかんで自信につなげよう。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その五)
ブレイクアウトの期間については、いろいろ試してみるといい。特定の値にこだわる必要はない。秘訣はある値を受け入れたら、一貫してそれにしたがうことである。テストと実践を繰り返せば自信がつくだろう。信頼する一方で、検証を忘れてはならない。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その六)
売買を仕掛けるタイミングについて悩むのはやめよう。重要なのは、いつポジションを手仕舞うかである。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その七)
TRは、あらゆる株式と先物取引について計算できる。過去一五日間のTRを産出し、それらをすべて加算して一五で割ればよい。これを毎日繰り返し、一番古いTRの値を除外していく。パソコンのソフトウェアを利用すれば、かなりの作業を自動化できる。

TRとはトゥルー・レンジの略であり、これは「過去二四時間に価格が上下したなかでの、理論上の絶対距離である」。具体的には、以下の三つの値幅のうちの最大値を指す。

  1. 当日の高値から安値までの値幅
  2. 前日の終値から当日の高値までの値幅
  3. 前日の終値から当日の安値までの値幅


実際の投資では、このTRの二〇日移動平均を算出し、この値を過去数週間のボラティリティN(ATR)として用いた。

取引ごとの資金量についても決まりがあった。取引一回につき、手持ち資金の二パーセントを投入すること。この二パーセントの資金量をユニットと呼んだ。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その八)
(金額の多い少ないにかかわらず)資金残高の二パーセントを計算しよう。資金残高が一〇万ドルなら、一回の取引でリスクにさらすことができるのは二〇〇〇ドルである。最初のうちは、判断を間違えることが多く、半数以上の取引で損失が出る可能性が高いので、投入金額はもっと少額にとどめておいたほうがいい。タートルたちは手持ち資金の二パーセントを投入したが、これを一・五パーセントにすると、リスクを小さくすることができる(もちろんリターンも小さくなる)。

  • N(ATR)にもとづく取引枚数の計算法
市場 N(ATR) 2N(ATR) ユニット
(口座リスク)
取引できる
枚数
トウモロコシ先物 $350 $700 $2,000 2
赤身豚肉先物 $420 $840 $3,000 3
日本円先物 $725 $1,500 $1,875 1
10年国債 $525 $1,050 $2,000 1

自己資金で取引する場合のアドバイス(その九)
グーグル株を取引していて、N(ATR)が二〇だとしよう。2Nのストップは四〇である。グーグル株で四〇ポイント失ったら、何があろうと手仕舞いしなければならない。問答無用だ。

「ストップ」とは損切りのこと。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その一〇)
タートルたちのように大金を稼ぎたかったら、レバレッジを使わなくてはならない。ただし、レバレッジの範囲を常に管理して、自分の限界を決して超えないようにすることだ。

利益を積み上げていく手法として「ピラミッディング」がある。これは、ブレイクアウトで仕掛けた後、価額が切り上がった段階で、追加ユニットを投入する手法だ。具体的には値幅が1N上がるたびに、一ユニット追加できる。最大五ユニットまでの積み上げがゆるされる。積み上げた場合のストップは、追加したユニットの2N下まで引き上げる必要がある。

自己資金で取引する場合のアドバイス(その一一)
トレーディングにお決まりのポートフォリオなどない。今日では、トレーダーたちは、実にさまざまなポートフォリオ(株式、通貨、債券、商品など)で、タートルのようなルールにもとづいて取引している。トレーダーの運用成績が一様でないのはこのためである。あらゆるトレーダーにとって基本原則となる「いくらで取引を開始すれば成功するか」といった黄金律も存在しない。少額から始めて大きく増やした者もいるし、大金をつぎ込んで無一文になってしまった者もいる。ほかにも、勝者と敗者とを分かつトレーディングの要因はいくつもあるが、それらについては後述する。

リスク大(相関性の高い組み合わせ)リスク小(相関性の低い組み合わせ)
ロングショートロングショート
トウモロコシ
大豆
日本円


10年国債
5年国債
大豆
日本円
生牛

5年国債
砂糖
原油

ポートフォリオの例1ポートフォリオの例2
ロングショートロングショート
トウモロコシ(1)
生牛(3)
ココア(1)
スイス・フラン(2)
小麦(1)
砂糖(2)
10年債(1)
コーヒー(3)
天然ガス(1)
大豆(2)
S&P500(2)
原油(4)
オーストラリアドル(3)
合計7合計4合計8合計7
リスク=(7-(4/2))=5.0リスク=(8-(7/2))=4.5