フリーラジカルは老化の原因ではないかもしれない

ニュース記事 Mutant worms defy aging theory | CBC News からの引用(拙訳)。

マギル大学の研究者が遺伝子操作した線虫は、禁止毒物に曝されても死ななかったばかりか、通常の線虫よりも長生きした。これは科学者たちの老化プロセス理解に対する挑戦だ。


モントリオール大学生物学部に在籍する Siegfried Hekimi 博士と教え子の Wen Yang 博士は、いわゆる「老化のフリーラジカル理論」を検証しようと計画を立てた。これに伴い、実験室で野生の線虫を、通常よりも容易にフリーラジカル(酸素使用の副産物として生成される有害分子)が生成されるよう遺伝子操作した。


理論はフリーラジカルこそ老化の原因だと主張している。フリーラジカルが種々の化学反応を引き起こし、細胞を損傷させる。そうして、体内の細胞は変化していく。結果、老化が進行し、最終的に死に至るというわけだ。


理論は今日まで長く一般の通念として捉えられてきたが、Hekimi 氏は「この理論を逆手にとるのです」と述べた。つまり、自身の実験で、たとえフリーラジカルの生成量が増えたとしても、老化が必ずしも加速されないことを明らかにしたのだ。


マギルの科学者たちは、線虫に除草剤パラコート(これは人間にも動物にも非常に有害であるため、EU は使用を禁止している)を撒くことで、フリーラジカルの生成を促進した。


Hekimi 氏の発見によれば、この線虫は、化学物質に曝されたにも拘わらず、何もされなかった線虫よりも、その後、実際に60%も長く生きたのだ。


「人間に当てはめて考えてみれば、かなりのものでしょう」と Hekimi 氏は CBC ニュースに語る。

この実験をご家庭では試さないで下さいよ

さらには、線虫に抗酸化物質(何人もの健康の専門家によって、死を回り道するのに効果ありと長く喧伝されてきた)を与えたところ、反対に、長くなったはずの線虫の寿命が40%も縮んだのだ。


「我々の実験では、毒物を使用したら、実際には正常動物の寿命が長くなってしまったし」Hekimi 氏は言う。「突然変異がやっていることを真似してフリーラジカルを増やしたら、実際には正常動物の寿命を伸ばす結果になってしまった」


でも、この実験をご家庭では試さないで下さいよ、と氏は警告する。


「我々はただこう言っているに過ぎない。物質が発生する(それにはフリーラジカルの増加も含まれる)。これは老化と闘おうとしているのだ。だからといって、老化とは何かそのことが教えているわけではない」


ミトコンドリアフリーラジカルを生成することで、実際には、老化に伴う細胞のダメージから生物が守られているのかもしれない、と氏は述べた。


「このことはまた、つぎのことをも示唆する。フリーラジカルの生成と老化の間に相関性が存在する理由は、フリーラジカルの生成がポジティブな反応だからである。つまり、生成はストレス反応のスイッチをオンにするひとつの試みであって、そうすることにより、老化の過程で蓄積されるダメージと闘っているのだ、と」


氏は意味深長なことを述べた。ビタミンCのような抗酸化物質を摂取することは、一方で、実は「見誤らされている」のかも知れない。寿命を延ばす試みとする限りにおいて、抗酸化物質は正解ではないのかも知れない。そのようなビタミンは実際には抵抗のひとつの要素となり得るのではないだろうか。フリーラジカルをスポンジのように吸収するのだから。

抗酸化物質は長い寿命を短くした

ある人たちにとって抗酸化物質が有益である状況が存在するかも知れないと、Hekimi 氏は認めた。


「それは、控えめに言っても非常にクリィテカルに分析しなければならないという、単なるひとつの合理的な結論に過ぎない」


抗酸化物質である、ビタミンCも N-アセチルシステインも、突然変異の線虫の寿命は短くしたが、無操作の線虫には全く影響を及ぼさなかった。


老化と酸化的ストレスの間の結びつきに対する、現段階での我々の理解が、データによってどう変化し得るかを探るために Hekimi 氏はさらなる研究が必要だと呼びかけた。


フリーラジカルは明らかに関係しているが、今まで考えてきたのとはかなり異なる関わり方であるかも知れない」と氏は述べた。


ネブラスカ州立大学メディカルセンター内科名誉教授 Denham Harman 博士は、老化のフリーラジカル理論を1954年に確立した。それはいまだに、最も広く受け入れられている老化理論だ。


「このことを人々に受け入れてもらうのは本当に難しい。なぜなら、あの理論は本当に人々の意識に入り込んでしまっているから」と Hekimi 氏は言った。「道行く多くの人に老化の原因が何か訊ねたら、多くはフリーラジカルだと答えるが、そこには複雑なストーリーがあるのだ」


近年、理論は様々な科学者によって異議を唱えられている。そこには、パロ・アルトにあるスタンフォード大学の線虫を研究をしている別のグループも含まれる。


他にも、老化はフリーラジカルだけに起因しないと割って入る人々もいる。曰く、ライフスタイルの選択や環境や遺伝子もまた大きな役割を果たしている、と。


11月、トロント大学生物学部准教授 Maydianne Andrade 博士が、雌蜘蛛の食事制限に関する研究結果を発表した。それによれば、食物の摂取量を減らすことが長寿につながるという。


それから2月、ハミルトンにあるマクマスター大学が、30種類のサプリメントを組み合わせて実験したところ、マウスの老化プロセスを遅らせたようだという。