近世日本国民史の電子書籍化

電子書籍販売サイト『ebookjapan』で徳富蘇峰の『近世日本国民史』全50巻が購入できるようになったようです。
この本は、かの渡部昇一氏が日本史研究者必携の書として『知的生活の方法』の中で推薦していたものです。大正時代から昭和初期にかけて書かれた本だけに文体は古めかしいですが、慣れてしまえば問題なく読み進めることができます。

今でも思い出すのは徳富蘇峯の『近世日本国民史』五十巻を六本木の古本屋で見つけたときのことである。これは信長以来、幕末までのもっとも史料的に充実した本であって、のどから手が出るほど欲しかった。値段は三千円で、格安だ。しかし五十巻の本を買って来たら寝る所がないのである。自分だけの一室なら、本を敷いて、その上にふとんを敷いてもよい。しかしなにしろ相部屋なのだ。それでこれを当時、日本史の研究に来ていたアメリカ人の学者に買わせてあげようと思ってすすめたが、「高い」と言って買わない。その人は当時、一泊千五百円もする都心のホテルの一室を年契約で借りていたのだから、「高い」というのはおかしな話だと思った。この人は一時、日本関係の著作を出版していたが、そのうちまったく消えてしまった。金も空間もあるのに、自分の専門のこんな便利な本を買わないようじゃ、さきが知れていると思ったが、はたしてそのとおりになった。二十数年前のこんなつまらないことまでよく覚えているのは、その当時の空間の恨みが骨身に徹していたからである。念のために言っておけば、蘇峰の例の本は、それから数年後に、空間の都合がつくとすぐまた別の古本屋で見つけて買いこんだ(この本についてのくわしいことは拙著『腐敗の時代』---文藝春秋社---に収めてある)。

『知的生活の方法』 p.96


小生も長いこと、古本屋を覗く度に、本書の講談社学術文庫版がリーズナブルな価格で出ていないか探していたものです。この文庫版は現在絶版の上、定価が1,900円前後であり、昔ながらの古本屋の相場でも1冊1,000円はくだらず、気軽に買えるものではありませんでした。
ところが今や、それが電子書籍版とはいえ、420円〜840円(平均価格596円、総額29,820円)で買えるようになった点は大変ありがたいことだと感じるわけです。