希望の資本論 - 池上彰, 佐藤優

  「仕事か、家庭か」は根源的問題


佐藤 そうすると、ここで重要なのは、やはり、マルクス経済学における賃金論なんですよね。繰り返しになりますが、『資本論』における賃金論というのは、三つの要素からなります。
 ①1番目。これは1ヵ月の賃金で考えましょう。家を借りる。労働者は家を買わないという前提ですからね。日本の圧倒的大多数のサラリーパーソンは三十何年もローンを組んで家やマンションを買いますが、そんな長期のローンを抱えるのであれば、これは一生借りているのと一緒なんですよ。それから食事をとって、服を着て、ちょっとしたレジャーをする。それで次の1ヵ月働けるエネルギーを蓄えるというのが1番目。
 ②2番目の要素が、次世代の労働者階級の再生産。すなわち家族を維持して、子どもに労働者となれる教育を受けさせて社会に出す、その間の賃金。
 ③3番目。技術革新が起きるので、それに合わせて本人が自己学習する費用
 この3つが必要だということなんですね。資本主義がきちんと回っている時は、この3要素が満たされてくる。

本書に登場する主な書籍・映画

はじめに --- 池上彰
第1章 ピケティからマルクス
ピケティ・ブームの二つの理由
"物語としての経済学"
対話的理性を信じるβ版の思想

第2章 一冊の本が世界を変えた

右でも左でもなく
残業代ゼロが生む新たなプロレタリアート
目には見えない力を見極める
資本主義もまた万能ではない

第3章 マルクス主義先進国ニッポン

講座派と労農派
日本特殊論か世界システム論か
日本の左翼の不思議なねじれ

第4章 イスラム国」とコミンテルン

内ゲバの思想
資本主義の三つの形
イスラエルマルクス主義の落とし子
資本論」を読むと論理が強くなる

第5章 女性が資本主義を支える?

「仕事か、家庭か」は根源的問題
システム維持に女性が利用される
ヒューマニズム復権

第6章 わたしと『資本論

この社会の構造の限界がわかる
新左翼と「人を殺す思想」
宇野弘蔵がおもしろい

第7章 知性という最大の武器

ものを知らないと損をする
自分のポジションを相対化する
敵の内在的論理を学べ
家族旅行から不倫の恋まで

第8章 さあ、読んでみよう

さまざまな訳を楽しむ
難しかったら音読せよ

おわりに --- 佐藤優
対談 トマ・ピケティ×佐藤優
ブックガイド「資本論」を読み解くための8冊