神学部とは何か - 佐藤優
私の場合は、もともとの母体が日本キリスト教会というカルヴァン派の教団だったので、結局はカルヴァン的な発想から抜け出ることができない。人間誰しも、人生で一番最初に触れた世界観的な思想、つまり生き死にの原理を説く思想の刷り込みからは抜け出せないというのが、私の結論である。私の場合は、結局それはカルヴァン派的なキリスト教だったのだ。
私は今、犯罪昔として逮捕起訴されていながら、逮捕時の経験や裁判をネタにしてこういう物書きの仕事をしている。検察庁に言わせれば、「反省していない」ということになる。しかし私は、神との関係においては深く反省しているつもりだ。逮捕以来、「どうしてこういうことになったのか」と、何度も自分の中で考えた。そして、それと同時に、「なぜ神は、私にこういった試練を与えるのか」と考える。だから、どんな逆境や厳しい状況にあっても、絶対にあきらめない。それは、見方によっては、意志が強く根性があるように見えるのだが、裏返すと、「反省をしていない、とんでもないやつ」ということだと思う。これはカルヴァン派的キリスト教の最大の長所であり、かつ最大の弱点である。
実を言うと私は、カルヴァンは嫌いなのだ。バルトも嫌いである。私がフロマートカに惹かれるのは、フロマートカの中に、ルターやウェスレーにつながるような部分があるからだ。フロマートカには、バルトのようにすぱっと割り切れないところがあって、そこにものすごく惹かれるのだが、惹かれたまま、今はまだ自分の中で神学的に整理されていない状況だ。
だから、外務省から離れて公の仕事から手を引くようになった今、私は残りの人生の中で、神学的な作業をもう一回きちんとやり直してみたいと思っている。いま徐々にそういった作業を始めているところだ。
本書に登場する本
- ダレン・オルドリッジ『針の上で天使は何人踊れるか』
- ヤロスラフ・ペリカン『キリスト教の伝統』(全5巻)
- カール・バルト『教会教義学』(全36巻)
- ジャン・カルヴァン『キリスト教綱要』
- マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
- 滝沢克己『カール・バルト研究』
- 佐藤優『テロリズムの罠 右巻――忍び寄るファシズムの魅力』
- 滝沢克己『「現代」への哲学的思惟』
- ハーヴィ・コックス『民衆宗教の時代』
- ハーヴィー・コックス『神の革命と人間の責任』
- カール・バルト『十九世紀のプロテスタント神学』
- エリ・ケドゥーリー『ナショナリズム』
- マルクス『資本論』
- デービッド・リカード『経済学および課税の原理』
- カール・バルト『キリスト教倫理』(全4巻)
- シュライエルマッハー『宗教論』
- シュライエルマッハー『キリスト教信仰』
- カール・バルト『ローマ書』
- フロマートカ『なぜ私は生きているか』
- フロマートカ(ロマデカ)『破滅と再建(復活)』
- シュライエルマッハー『神学通論』
- 魚木忠一『日本基督教の精神的伝統』
- ホワイトヘッド『過程と実在』
- 姉崎正治 - 4部作
本書で言及されている人物
- ベン・イェフダー ('Eli'ezer bēn Yәhūdhāh) *1-(19)
- シュライエルマッハー (Friedrich Ernst Daniel Schleiermacher) *1-(26)
- フォイエルバッハ (Ludwig Andreas Feuerbach) *1-(46)
- ジョン・マッコーリー (John Macquarrie) *1-(54)
- ハンス・キュンク (Hans Kung) *1-(55)
- ジョン・ヒック (John Hick) *1-(58)
- エーバーハルト・ユンゲル (Eberhard Jungel) *1-(60)
- トレルチ (Ernest Troeltsch) *1-(61)
- フリードリヒ・ゴーガルテン (Fridrich Gogarten) *1-(64)
- バスバンドゥ (Vasuban-dhu) *1-(71)
- ハーヴィ・コックス (Harvey G. Cox) *2-(6)
- エリ・ケドゥーリ (Elie Kedourie) *2-(8)
- リカード (David Ricardo) *2-(10)
- ディートリヒ・ボンヘッファー (Dietrich Bonhoeffer) *2-(15)
- マルティン・ニーメラー (Martin Niemöller) *2-(17)
- アルブレヒト・シェーンヘル
- バルト (Karl Barth) *2-(18)
- トゥルナイゼン (Eduard Thurneysen) *2-(25)
- マクグラス (Alister Edgar McGrath) *3-(3)
- ドーキンス (Richard Dawkins) *3-(4)
- トマス・トーランス (Thomas Torrance) *3-(5)
- パウル・ティリッヒ
- ラインホールド・ニーバー
- ハンス・フライ
- アルタイザー
- ハミルトン
- ベルジャーエフ (Nikolai Aleksandrovich Berdyaev) *3-(6)
- ソロヴィヨフ (Sergei Mikhailovich Solov'ev) *3-(7)
- ブルガーコフ (Mikhail Afanas'evich Bulgakov) *3-(8)
- メイエンドルフ (John Meyendorff) *3-(9)
- シュメーマン (Alexander Schmemann) *3-(10)
- フローレンスキー (Pavel Alexandrovich Florensky) *3-(11)
- ブルトマン (Rudolf Bultmann) *3-(13)
- 姉崎正治 *3-(16)
- 日野眞澄 *3-(17)
- 有賀鐵太郎 *3-(18)
- 熊野義孝 *3-(19)
- 高山岩男 *3-(20)
- ゼーベルク (Reinhold Seeberg) *3-(21)
目次
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 新教出版社
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 単行本
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まえがき1 神学とは何か
神学とは何か神学は「虚学」である
神学では論理的整合性が低い側が勝利する
神学論争は積み重ねられない
それでも神学は「役に立つ」神学の4区分聖書神学
歴史神学
組織神学
実践神学神学は学問たりうるか神学は実証しうるか
神学と信仰との関係
神学のない信仰は危険
信仰のない神学はありえない
神学と人文社会科学との関係非キリスト教徒にとっての神学2 私の神学生時代
3 神学部とは何か
ヨーロッパにおける神学部という場(トポス)神学部のない総合大学は存在しない
ヨーロッパの神学事情日本における神学部という場(トポス)日本の神学部の実態
神学部に向くタイプの人
神学課程の長い道のり――語学、基礎学、補助学
日本の神学のこれからあとがきコラム記事 日本の神学部紹介