知性とは何か - 佐藤優

二〇一四年衆院選が露呈した安倍首相の反知性主義

 どうすれば反知性主義を克服することができるか、というのは非常に困難な課題である。結論を先取りして言うと、反知性主義者が反知性主義脱構築することはできない。
 繰り返しになるが、反知性主義とは、「実証性、客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」だ。実証性、客観性を軽視もしくは無視しているので、事実に基づいた反証を反知性主義者は受け入れないのである。知性による説得ということ自体を拒否している。反知性主義者は、閉ざされた世界観の中で自己充足しているので、外部を持たない。本質において、対話が不可能なのである。
 したがって、反知性主義者に対しては、こういう人々が力を背景に自らの心から生じた政治路線、経済政策を他者に強要していくことを、公共圏の力で封じ込めていくという方策しか取れないのだと思う。

本書に登場する本

第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章

知性とは何か(祥伝社新書)

知性とは何か(祥伝社新書)

目次
はじめに
第1章 日本を席捲する「反知性主義
――安倍政権の漂流
反知性主義」とは何か
麻生太郎ナチスの手口に学べ」発言の真意
麻生発言が日本外交に与える大きな影響
ナチス・ドイツ反知性主義――ケルロイターの憲法
教養人はヒトラーを嫌っていた
安倍首相が理解していない「集団的自衛権容認」の本質
日本を反知性主義に陥らせる二つのトラウマ

第2章 歴史と反知性主義
――ナショナリズムをどうとらえるか
歴史は複数存在する
スコットランド独立運動が持つ歴史的意味
英国政府が陥った反知性主義の罠
沖縄人の見たスコットランド独立運動
物事を判断するための三つの要素
事実ではないが、確実に存在する出来事
柳田国男の沖縄観
日本人が理解できない「帝国」と「帝国主義」の違い
自らの歴史を相対化することの重要性

第3章 反知性主義に対抗する「知性」とは?
(1)言葉の重要性
反知性主義者とヤンキーの共通点
ヤンキーが権力を持ったのが、安倍政権の姿
反知性主義を克服するために必要なもの
ネットにおける知の変容――「話し言葉」と「書き言葉」
グローバリゼーションで求められる二種類の英語
外国語習得に必要なのは「お金と時問」
間違った方法での語学は時間の無駄
語彙と文法を叩き込むことの重要性

第4章 反知性主義に対抗する「知性」とは?
(2)反知性主義存在論と現象論
目に見えない「何か」をつかむ
知性とともに身につけた「自己欺瞞」の能力
合理的な自己欺瞞の恐ろしさ
イスラム原理主義が影響力を増した理由
利用される日本の反知性主義
沖縄の問題を存在論的に読み解く
ピュリスムを受け入れなくなった沖縄
反知性主義者には見えない「民族問題」

第5章 どうすれば反知性主義を克服できるか?
二〇一四年衆院選が露呈した安倍首相の反知性主義
無視される沖縄の民意
「この道しかない」でソ連は崩壊した
現実主義者プーチンに日本はどう対応すべきか
戦争の可能性を直視せよ
日本の官僚の内在的論理とは
ネットゲームが反知性主義を強化する
反知性主義に対抗するカトリック神学の強さ
田邊元に学ぶ反知性主義克服の方法

第6章 知性を身につけるための実践的読書術
実践的な読書とは
日本の強化に必要な数学力と論理力
会社を辞めてMBA留学すべきか
韓国人エリートの勉強法
三〇代前半までに外国語を身につける
サイバー戦の工作でもっとも必要なこととは
イスラム国」の内在的論理を理解する

戦闘員は何を考えているか
日本でテロは起きるか
ピケティ『21世紀の資本』を読み解く
問題解決への強い関心
ピケティ『21世紀の資本』とマルクス資本論』は関係ない
マルクス経済学のエッセンスとは
ヘイトスピーチと日本の排外主義
あとがき