複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考 - 石田章洋


本書は献本サイト「レビュープラス」様から献本頂きました。

著者石田章浩氏はベテランの構成作家である。25年にわたり、あらゆるジャンルのテレビ番組の企画・構成を担当してきた。最近の担当番組は『世界ふしぎ発見!』、『TVチャンピオン』などである。
まず、書名の「インクルージョン思考」とはいったい何なのか。冒頭で石田氏はこう述べる。

インクルージョン思考」とは、「複数の問題を一気に解決する」アイデア、つまり「インクルーシブなアイデア」をつくるための思考法のことです。

これをさらに簡潔にまとめれば、「複数の問題を一気に解決する発想法」ということになるだろう。「そんな夢のような発想法なんてあるの?」と思ってしまう読者もいるかも知れない。具体例を見てみよう。

 それはスペイン内戦(1936-1939)の最中のこと。
 あるとき、フランコ率いる国民戦線軍の一部隊が、共和国軍の勢力に押され、丘のうえの修道院に立てこもらざるを得なくなりました。そのような四面楚歌のなか、さらなるピンチが訪れます。
 国民戦線軍は包囲された仲間を助けるため、食糧や医療品、武器弾薬などを航空機からパラシュートで投下して支援していたのですが、戦いが長引くうちにパラシュートの在庫が底をついてしまったのです。
 陸路は敵に包囲されていて、物資を補給するには空路しかないのですが、もはやパラシュートはありません。航空機から直接、落としてしまえば、物資は粉々になってしまいます。
 ところがそんなとき、たったひとつのアイデアが窮地を救いました。
 なんと、生きた家禽の七面鳥に補給品をくくりつけて、飛行機から投下し始めたのです。
 野生の七面鳥には飛翔能力がありますが、家禽の七面鳥は肉がたくさん取れるように大型化されたため、体が重くて飛ぶことができません。それでも上空から落とすと、なんとか助かろうと必死に翼を羽ばたかせるので、ふわりと着陸に成功するのです。
 しかも「食べられるパラシュート」として、前線の兵士たちのお腹も満たしたというのですから、まさに一石二鳥のアイデアでした。
 なお、この話、ネタかと思って調べたら、なんとスペイン内戦を克明に描いたアントニー・ピーヴァーの『スペイン内戦1936−1939』(みすず書房)にも記されている歴史的事実でした。
 このように、対立する問題を解決するだけでなく、シナジー効果まで生まれ、プラスアルファの結果をもたらすのが、複数の問題を一気に解決するインクルーシブなアイデアです。

どうだろうか。これがインクルーシブなアイデアとして石田氏が注目する事例である。こんな魔法のようなアイデアは、いったいどんな発想法から生み出されるのだろうか。その謎を解き明かしていくのが本書である。

本書は簡単に言ってしまえば発想法の本であり、同種の本は今までにもたくさん書かれてきた。実際に石田氏も本書の中で、ジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』などの類書を紹介している。

一つだけ本書の特長を挙げれば、やはり発想法の解説に、メタ認知の視点を取り入れている点だろう。第6章に出てくる「具体例 → ざっくり一般化 → 具体化」という記述がそれにあたる。

マジックテープが、植物のオナモミからヒントを得て商品化されたのはご存知だろうか。この商品にも、先に挙げた思考プロセスを当てはめることができるのだ。

具体例(オナモミ
      ↓
ざっくり一般化(くっついて、はがせる)
      ↓
具体化(マジックテープ)

たしかに発想のプロセスが3つのステップを踏んでいることが分かる。まず1.「具体例」であるオナモミがある。そこから2.「くっついて、はがせる」へと抽象度を上げ、そしてマジックテープへと3.「具体化」させる。
ハウツー本というのは得てして実用性が高い反面、応用性に欠ける点が弱点になりがちだが、本書はメタ認知の視点を使うことでその弱点から逃れており、その点で異質だと言えよう。

その他にも発想法に関してたくさんのヒントや知見が登場するがそれは実際に本書を手にとって読んで頂ければと思う。

石田章浩(いしだ・あきひろ)
構成作家日本脚本家連盟員、日本放送協会会員。1963年、岡山県生まれ。テレビ朝日アスク放送作家教室講師、市川森一藤本義一記念東京作家大学講師。25年にわたり各キー局のバラエティ番組・情報番組・クイズ番組・報道番組など、あらゆるジャンルのテレビ番組の企画・構成を担当。最近の主な担当番組は『世界ふしぎ発見! (TBS)』『TVチャンピオンテレビ東京)』『情報プレゼンター・とくダネ!(フジテレビ)』『BSフジLIVEプライムニュース』など。手がけた番組の合計視聴率は5万%を超える。構成を手がけた『世界ふしぎ発見!エディ・タウンゼント青コーナーの履歴書』が第45回コロンバス国際フィルム&ビデオ・フェスティバルで優秀作品賞を受賞するなど番組の企画・構成に関して高い評価を受けている。主な著書には『企画は、ひと言。』(日本能率協会マネジメントセンター)、『スルーされない技術』(かんき出版)、共著に『ビジネスエリートは、なぜ落語を聴くのか?』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考

複数の問題を一気に解決するインクルージョン思考

まえかき
インクルージョン思考とは何か
インクルーシブなアイデアは「一石三鳥」
こうしてあなたもインクルーション体質に

Chapter1
イデアとは、
複数の問題を解決するもの

そもそもアイデアつて何?
任天堂が『ドンキーゴング』を大ヒットに導けた理由
トレードオフの問題も両方とも解決できる
「予算はないが、おもしろい番組をつくれ!」
全米が笑った『英会話体操 ZUIIKIN'ENGLISH』とは?
複数の問題が一気に片づいた!
インクルーション思考は0・1秒でひらめく

Chapter2
インクルーション思考への障害

勘違いだらけのアイデア発想法
「ぶっとんだアイデア」はいらない
「論理的な思考」もいらない
100%新しいアイデアはない
「売れる企画」というのもない
「二匹目のドジョウ」は狙っても釣れない
妥協案は「その場しのぎ」にしかならない
みんなで一緒にアイデアを考えない
「フツー」の人の感覚を持ち続ける
「自分はこうしたい」の発想を捨てる
最後まで絶対に言い訳を考えない
Chapter3
ひらめきを生み出す準備と4つの段階
インクルージョン思考を生むためのプロセス
天才たちが照らすアイデアの地図
問題を忘れたとき、アイデアは浮かぶ
「ひらめき」を実感する難しさ
インクルーシブなアイデアヘの4ステップ
Chapter4
第1段階
高次の目的を決めて旅立つ

「制約」――できないことを確認する
制約だらけのミッションにも解決策はある
「目的」――何のために考えるのか
目的は高次なものでなければならない
高次の目的で被災地を救った「重機プロジェクト」
「期限」――締め切りはアイデアの母
独創的なアイデアは強制的に書くことで浮かぶ
Chapter5
第2段階
目的に従って材料を集める

「情報洪水」のなかでの材料集め
必要な情報が引き寄せられるワケ
インターネットで「あたり」を取れ
集めた情報を整理してはいけない
自分の判断で材料に「色」をつけない
自らの判断はいったん「留保」して掘り下げる
「特定の誰か」は、それをどう受け取るだろ?
ターゲットになりきるだけでひらめく!
たったひとりのためのアイデアが世界に広がる
ターゲットでスタイルをつくった『セサミストリート
ニーズとその理由を探り、見つけていく
自分の情報を棚卸ししておく
Chapter6
第3段階
異なる分野の材料をつなげる

欠けてる部分にぴたりとはまるかけらを探せ!
最適なかけらは異分野に眠っている
オナモミがマジックテープになった「関連づけ」
「ざっくり一般化」して関連づけよう
異質なアイデア同士の結び方
「具体例→ざっくり一般化→具体化」の思考プロセス
「なぞかけ」で思考プロセスを解く
「なぞかけ思考」ではその“構造”“本質”に着目する
関連づける項目は“遠距離恋愛”でなければならない
異分野に秘められた関連性を探せ!
ワーク――なぞかけをやってみましょう!
Chapter7
第4段階
手放して「ひらめき」とともに帰ってくる

「煮詰まった」状況を歓迎しよう
夜明け前が最も暗い
熟成前のアイデアはいったん手放そう
偉人たちも「手放した」からひらめいた
グーグルの“20%ルール”が証明するもの
仕事のためにも空想にふけろう
ぼーっとしているときも脳は働いていた!
ひらめきを生むデフォルト・モード・ネットワークとは?
「手放す」から、無意識の材料と結びつく
すべてはデフォルト・モード・ネットワークのため
『英会話体操』のアイデアも手放して生まれた!
上手に手放すための生活スタイル
あなたもインクルージョン思考で実際にアイデアを生み出そう!
Chapter8
インクルージョン思考を磨く
7つの習慣

宮崎駿にも不遇時代があった
イデアを生み出し続けて巨匠へ
習慣1 好奇心を持ち続けてストックを増やす
習慣2 必ず「日付の入った」メモを取ろう
習慣3 インプットは雑食系を心がける
習慣4 デスク周りは「綺麗に」散らかそう
習慣5 ぼーっとする時間を「意識的に」つくる
習慣6 毎日、誰かを笑顔にしよう!
習慣7 自らを世界の一部だと考える
あとがき
参考文献

Column
1 なぜ複数の問題が同時に起きるのか?
2 インクルーシブなアイデアは周囲を巻き込んでいく
3 フジテレビ低迷の理由はインクルージョン思考不足?
4 異なる物事を関連づける才能のある人
5「緊張の緩和」がアイデアを生み出す!