体が若くなる技術 - 太田成男

プロローグ


 誕生日を重ねるごとに、またひとつ年をとったのかと、ため息をつく人がいます。誕生日を通して、自分の「老い」を認識してしまい、だんだん体が若さから遠ざかっていくことを感じてしまうのでしょう。
 私たちはいつか老いと闘わなければいけない。そう感じている人も多いのではないでしょうか。
 しかし、それは大きな間違いです。
 なぜなら、私たちは生まれつき「若くなるようにできている」からです。
 正確に言うと、生まれてから死ぬまで、「若くなるための機能」を持って生活しているのです。


 体は必ず老いていくものであり、それは避けることができません。
 頑張ろうと思っているのに、以前ほど頑張りが続かない。
 駅の階段を上っただけですぐに息が上がってしまう。
 三〇代のときに比べて、肌にハリがなくなった。
 そんな「体の衰え」を感じたとき、あなたはどうしますか?
「体力が落ちて疲れたときには、なるべく体を休めるようにしている」
 もし、そう答えたなら要注意です。
 なぜなら、それは老いへの対抗策でしかなく、体を休めてばかりいると、体の衰えを止めることはできないからです。
 体に休養を与えれば、体力は回復してくれるのではないか?
 そう疑問に思われた方も多いことでしょう。
 これにお答えするには、「体のエネルギー」とは何なのか、ということを知っていただくことが必要です。体のエネルギーは「生命力」と言い換えてもいいほど、生命に不可決なものです。
 私たちの体は、何をするにもエネルギーを必要としています。
 その「エネルギー」が減少すると、疲れやすくなったり、すぐ息が上がったり、体の機能は低下してしまいます。そして体の衰えとは、体の「エネルギーをつくる能力」が低下するということなのです。
 体を休めるとエネルギーを必要としなくなるため、「エネルギーをつくる能力」はどんどん低下してしまい、結果的に体の衰えを後押しすることになるのです。
 体の衰えが、エネルギーをつくる能力の低下であることを示すわかりやすい例があります。それは、「中年太り」です。
 中年になると太りやすく、やせにくくなるのは、エネルギーをつくる能力が衰えるため、食事によって取り込んだエネルギーの原料が使い切れずに余ってしまうからなのです。
 太りやすくなるのは、代謝が悪くなるからだとよく言われますが、代謝が悪くなるとは、原料をエネルギーにつくり替える能力が低くなるということです。
 しかし、これを逆の視点から見れば、もしエネルギーをつくる能力をアップさせることができれば、体力がアップするうえ、若々しく、太りにくい体になるということです。さらに、エネルギーをつくる能力が高いと代謝がよくなるので、肌が美しくなるなど女性にうれしい美容効果も期待できます。
 このように考えると、エネルギーをつくる能力を向上させることは、一石二鳥どころか、一石三鳥にも四鳥にもなるすばらしい健康法と言えます。
 じつはこのエネルギーをつくる能力こそ、「体を若くする機能」の正体なのです。
 そしてこのエネルギーを生み出しているのはいったいどこなのか、それはミトコンドリアなのです。


 ご挨拶が遅くなりましたが、私は現在、日本医科大学で教授を務めている太川成男といいます。専門は、分子細胞生物学、そのなかでもミトコンドリアの研究を中心に行っています。
 ミトコンドリアという名前は、皆さんも耳にしたことがあると思います。
 ミトコンドリアは、私たちの細胞の中にある小器官のひとつで、主にエネルギーの生成を行っています。
 一九九五年に、作家・瀬名秀明さんが書かれた「パラサイト・イヴ」(角川書店)というホラー小説がベストセラーになったのを機に、日本人のミトコンドリア認知度はいっきに高まりました。
 ただ残念ながら、ミトコンドリアという名前は知っていても、そのはたらきや姿までご存じの方はあまり多くありません。
 皆さんがミトコンドリアのことをあまりよく知らなくても無理はありません。なぜなら、ミトコンドリアと健康について詳しくわかってきたのが、最近のことだからです。
 そのうち、とくに大きな発見がミトコンドリアに「体を若くする機能」があるということだったわけです。
 キーワードは「活性酸素」と「ミトコンドリア」のふたつです。
 活性酸素が体にさまざまな害をもたらすことはよく知られています。
 ミトコンドリアは、生きるために必要なエネルギーをつくっていますが、その質が悪ければ活性酸素をつくり出し、よければ活性酸素を少なくして害を抑えてくれるのです。
 ミトコンドリアがエネルギーをつくる工場だとしたら、活性酸素はエネルギーをつくる際に出てしまう有害な排水もしくは排煙のようなものだと思ってください。
 そのため、ミトコンドリアでエネルギーをつくる以上、活性酸素ができてしまうのは避けられないことなのです。
 ところが、研究が進むと、同じミトコンドリアでも、効率よくエネルギーをつくりながら、しかも活性酸素をあまり出さない「質のいいミトコンドリア」と、エネルギー効率が悪いうえ、活性酸素をたくさんつくってしまう「質の悪いミトコンドリア」があることがわかりました。しかも、その「質」のよし悪しは、私たちの生活習慣によってよくも悪くも変化し、それが老化のスピードを速くも遅くもするのです。
 体の老いは少しずつ進行していきます。
 ですが、ミトコンドリアの量を増やしさえすれば、体の機能は向上し、健康に暮らすことができるのです。代謝が活発になれば美容への効果も少なくありません。体の内面を若くすると、自然と外面も若くなります。
 よいミトコンドリアを増やす方法はいたってシンプルなものですが、ちゃんと最新の科学に裏打ちされた方法ばかりです。
 具体的にどうすればエネルギーをつくる能力をアップさせることができるのかというと、ひと言で言うならば、「体にエネルギーを必要としていることをわからせる」ということです。

  • 「マグロトレーニング」をすること
  • 背すじをのばすこと
  • 寒さを感じること
  • 空腹になること

 大きく分ければこの四つしかありません。


 たった今から「老いと闘う」という意識を捨ててください。
 生まれつき体に備わっている「若さ」をもっと活用する――それがもっとも優れた健康法であり、もっとも体に優しい生き方でもあるのです。
 本書を手にとってくださった皆さまが、少しでも「若くなる技術」を実践していただけることを心より願っております。
 実践したその日から、体は若くなる。そう断言できます。
 あなたが少しずつでも変わっていくことを、心より楽しみにしています。

体が若くなる技術

体が若くなる技術

第1章 健康で長寿の人ほど「体内」が若い
・なぜ「鶴は千年、亀は万年」なのか
・マラソン選手の体は限りなく「鳥」に近い
・「ファイト一発!」は仕事の後で役に立つ
食用油は「中鎖脂肪酸入り」を使いなさい
・元ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリが受けた誤解とは
・老いは「体を休めた人」からやってくる
・お酒に強くなった人は「食道がん」に気をつけなさい
ミトコンドリアは「認知症」も予防する
・「がん」の原因と「老化」の原囚はまったく同じ
・最後の防衛本能「アポトーシス」のはたらきとは
・男性の大厄は、科学的にも「四二歳」である
第2章 「老いる仕組み」と「若返る仕組み」
・浦島太郎は「おじいさん」ではなく、「病人」になっていた
・私たちの遺伝子は「一日に一〇万か所」も傷ついている
・人間は生まれつき老化しないようにできている
・地獄の沙汰も金次第、体のことはエネルギー次第
・なぜ女性は男性よりも長生きするのか
・「加齢臭」は健康状態を知らせるサインである
・正座をした後、すぐに立ち上がってはいけない
・なぜ脳梗塞は二時間以内の治療が必要なのか
・早食いは「老いる仕組み」への第一歩と心得よ
・ストレスが活性酸素を発生させる
絢香さんが告白したバセドウ病の症状とは
・エネルギーとは「貯金のできないお金」である
・九〇歳からでも基礎代謝を増やすことはできる!
・体にとって食べ物は「電気の素」である
・「運動をすると短命になる」というウワサは本当か?
・呼吸で取り込んだ酸素は、一〜二%が活性駿素となる
・マイルド・カップリングが活性駿素の発生を防止する
ミトコンドリアの「量」が「質」をつくり出す
第3章 メタボはエネルギー代謝の病気である
・内臓脂肪を減らす「唯一の方法」とは
・「やせ体質」か「太め体質」かは、思春期までに決まっている
・なぜ三谷幸喜さんは徹夜仕事で「げっそり太る」のか
・メタボは体によくないが、「やせすぎ」はもっと悪い
・脂肪細胞はやせている人の味方をする
・食事は三〇分以上を目安に食べなさい
・満腹ホルモンも、体内時計で動き出す!
・糖尿病も「ミトコンドリアの不調」からはじまる
第4章 ミトコンドリアを増やす運動習慣
・まずは「マグロトレーニング」をはじめなさい
・最大心拍数は六〇%がちょうどいい
・「筋肉痛にならない」は、体が衰えきった証拠である
・「短時間」で効果を出す有酸素運動とは
・「社交ダンス」に隠された超健康法の秘訣とは
・古来より伝わる動きほど健康にいい
・「不自然な姿勢」を習慣化すれば若くなる
・確実にやせて、確実にリバウンドのない方法とは
・高齢になったら、ちゃんと「少量の活性酸素」を出しなさい
・サウナに入った後は、水風呂に入りなさい
第5章 おなかを空かせて若くなる
・不老長寿の極意は「摂らないこと」にある
・長寿の研究は、「パン酵母」からはじまった
・寿命をのばす「長寿遺伝子」とは
・サルもひと目見れば「若い」か「年配」かがわかる
・栄養バランスは「3:3:1」で摂りなさい
・「週末断食」が眠っていたミトコンドリアを呼び覚ます
・運動はおなかを空かせてはじめなさい
・「やせないこと」と「空腹になること」はどう使い分けるのか
・緑、赤、黄色の野菜を食べなさい
・ビタミンCの摂りすぎはがんになる!?
・「生殖能力」の低下を招くカロリー制限の危険とは
・もっとも理想的な食生活は「感謝」によってつくられる
ミトコンドリアは「ゆっくり」の先にあらわれる
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