仕事は楽しいかね? - デイル・ドーテン

だれだって、後からだったら、何だって言える。
革新というのは簡単そうに見えるものなんだ、後から見ればね。
 マックスは少し考える時間をくれたが、また話を続けた。
「実際にあった話をしてあげよう。それを聞いたら、僕の言わんとしていることがわかると思うよ。サンフランシスコにある紳士服の店の話がいいかな。
 その店の経営状態は、ほとんど赤字になるくらいに傾いていた。きみは、<自分は>企業の従業員としていろいろ問題を抱えていると思っているけど、想像してごらん。週に六十時間も働いているのに、まるで収入にならないんだよ――会社にお金を払って働かせてもらっているようなものじゃないかね。
 店のオーナーは、店をたたもうと思い始めていた。だけど、僕の知り合いで中小企業専門のコンサルタントをしているデイヴィッド・ウィングに相談してみることにした。店のオーナーの希望は、お金をかけずに、何とかして巻き返しをはかりたいっていうこと。そんなの無理だと思うだろう? だけどこのデイヴィッド・ウィングは店に入ってしばらく中を見たあと、こんなことをオーナーに助言した。
一 店の中にあるあらゆる商品を並べ替えること。
二 開店時間を十時から七時半に変えること。
三 熱帯魚の入った大きな水槽を買うこと。
 きみは、この人頭がどうかしてるんじゃないかと思っただろうね。だけど彼にはちゃんとした理由があった。店の前は人通りがものすごく多い。店の中に大きな水槽があれば、歩きながらみんなきっと目をとめるだろう、というわけだ。だけど、なぜ水槽なのか?
『なぜって』とウィングは僕に言った、『水槽を置いている紳士服の店なんて、見たことがないからですよ』つまり、ほかと違う店になるためだけに、そういう変わったことをしたんだ。だけどそのおかげで店員たちもすごく創造的になった。たとえば、水槽にはしごをもたせかけて、その上にマネキンを置いたりした。そうすると、マネキンが魚を食べているように見えるんだよ。
 それから、すべての商品を並べ替えるというアイデアだけど、これが実行されたのは単に、店の中を全然違ったふうに見せるためだった。まったく同じ商品でも、いったん取り払って違った場所に置き直したら、客には新しい商品が入ったように見えるんだ。
 最後に、店をもっと早く開けるというウイングのアイデアについてだけど、このプランはね、出勤途中のビジネスマンがその日の重要な会議のためにこれだ!と思うようなネクタイに目をとめたり、あるいは厚手のコートや傘が急に必要になる場合を狙ったものなんだ。
 売上げはたちまち三十パーセント伸びて、店は再び素晴らしい利益をあげるようになった。
 振り返ってみると、オーナーは工夫すべきことなんてほとんどないように思ってた――価格を大幅に下げたり、大々的に宣伝をしたり、あるいは店を改装する余裕なんてない、とね。
 だけど彼は、変えられるところはまだたくさんあるし、しかもいっぺんに変えられることに気がついた。そして、営業時間を長くすることで、売上げが五パーセント伸びた。商品の陳列を変えたり水槽を置くことでも、やっぱり五パーセント伸びた。だけどそれだけじゃない。三つを同時にやったことで、客として来てくれそうな人たちにホーソーン効果がもたらされた――客は店で何か起きてるぞと気づいて、確かめたくなったんだ。
 それに、店員たちもホーソーン効果を実感したはずだ。自分たちは実験の重要な要素なんだ、とね。それはやる気を高めることにつながったし、その結果として顧客に対するサービスの質もよくなった。
 この偶然に気がついてほしいな。紳士服の店の売上げは三十パーセント伸びたけど、これは、ホーソーン工場の実験で見た生産性の伸びと同じ数字だってことに」
 これを聞いて、私は尋ねずにいられなかった、「つねに三十パーセントなんですか。二十パーセントとか四十パーセントってことは?」
 「二十パーセントいうことも、三十パーセントということもある。ゼロということも、二百パーセントということも。それでも、三十パーセントという数字は僕には印象的だ。着実な進歩を示しているし、達成しがいのある目標だし。そう、それは宝くじに当たるようなものじゃない。一生に一度あるかないかの機会を――コカ・コーラやリーバイスみたいなアイデアを、ただ待ってちゃダメなんだ。もしそういうものを指をくわえて待っているなら、きみはアイデアに巡り合うなんていう経験は一度もできないだろうし、この先何十もの素晴らしいアイデアを見落としていくことになるだろうね」
 肘でそっと私をつつき、マックス・エルモアはにっこり笑った。
「ねえ、僕の若い友だちくん、生産性にしても収入にしても、三十パーセントもあがれば、文句なしじゃないかね?」
 私は期待されたとおりの返事をした。
「いいかい、できることはどんどん変えてごらん。みんなが、きみが変えていることに気がつくくらいに何でも変えるんだ。好奇心を旺盛にすること。実験好きな人だと評判になったら、みんなのほうからアイデアを持ってきてくれるようになるよ」
 話しそのものは理解できたが、それでも、どうすればいろんなことを変えられるのか、やはり想像がつかなかった。私の勤めている会社にはさまざまな方針や指針がある。いったいどれくらいの自由が私にあるだろう? ふんだんにある、とはとても言い難かった。

 私の疑問に、彼はこんな答えをしてくれた。
「どんなふうに僕がアイデアを生み出しているか。教えてあげよう。もし試してみたいというなら――そして、この空港が再開されれば、だけど――、きみには帰りの飛行機の中でやるべきことがある。リストを三つ、つくるんだ。

仕事は楽しいかね?

仕事は楽しいかね?

第1章 仕事は楽しいかね?
第2章 人生とは、くだらないことが一つまた一つと続いていくのではない。
一つのくだらないことが〈何度も〉繰り返されていくのだよ。
第3章 試してみることに失敗はない
第4章 明日は今日と違う自分になる、だよ。
第5章 これは僕の大好きな言葉の一つなんだ。
「遊び感覚でいろいろやって、成り行きを見守る」というのがね。
第6章 必要は発明の母かもしれない。だけど、偶然は発明の父なんだ。
第7章 目標に関するきみの問題は、世の中は、きみの目標が達成されるまで、じーっと待っていたりしないということだよ。
第8章 きみたちの事業は、試してみた結果失敗に終わったんじゃない。
試すこと自体が欠落してたんだ。
第9章 あの実験で学ぶべきことはね、
「あらゆるものを変えて、さらにもう一度変えること」なんだよ。
第10章 それはね、「あるべき状態より、良くあること」なんだ。
第11章 もし宇宙が信じられないような
素晴らしいアイデアをくれるとして、きみはそれにふさわしいかね?
第12章 覚えておいてくれ。
「試すことは簡単だが、変えるのは難しい」ということを。
第13章 新しいアイデアというのは、新しい場所に置かれた古いアイデアなんだ。
第14章 きみが「試すこと」に喜びを見い出してくれるといいな。
エピローグ
謝辞・情報源・参考文献
訳者あとがき