いっきに学び直す日本史 古代・中世・近世 教養編 - 安藤達朗

ビジネスパーソンが本気で日本史を学ぶのに最適の1冊

山岸 本書の元となった『大学への日本史』をリニューアル復刊するという企画は,もともとは佐藤さんの発案だったそうですね。まずは,その意図からお聞かせいただけますか。
佐藤 教養ブームといわれて久しいですが,ビジネスパーソンの中にも,本物の教養を身につけたい,きちんとした日本史の基礎知織を体系的に身につけたいと思っている人は大勢います。「日本史を勉強し直すのにおすすめの本はありますか? という質問もよく受けます。そうしたビジネスパーソンに推薦する最適の1冊は何なのか,それを考えたときに浮かんだのが,『大学への日本史』のリニューアル復刊でした。
山岸 『大学への日本史』は,佐藤さんご自身にとって,日本史の知識の基盤となったような1冊だそうですね。
佐藤 そうなんです。私は大学受験のときに世界史を選択したので,学生時代はあまり日本史に触れずに来てしまいました。ですが外交官になると,諸外国の方々とのコミュニケーションで,日本についての知識を身につけることが急務となったんです。あわてて日本史を学び直したときに,非常に役に立ったのが,この『大学への日本史』でした。
山岸 『大学への日本史』は,日本の大学入試が最も難しかったころに使われていた学習参考書の名著です。長らく絶版状態で,本の存在を知らない人も多いかもしれませんが,発行当時,最高峰の参考書だったことは間違いありません。
佐藤 ただ復刊するにあたって,一点,記述に関しては不安があったんです。というのも,時代とともに学説そのものが変わっていますし,揺れもある。たとえば,古代史のとくに旧石器に関しては,2000年に旧石器捏造という大事件が起きて,それまでの学説がくつがえっています。
 そういった点を含めて,現場で教えておられる山岸先生に全編チェックしていただき,最新の情報に改めたうえでリニューアル復刊できました。いま最先端の日本史の学説が織り込まれているという点においても,非常に価値の高い1冊に仕上がっていると思います。

上をめざすビジネスパーソンには,日本史全体の知識が必須

山岸 佐藤さんは,ベストセラーになったご著書『読書の技法』(東洋経済新報社)の中で,ビジネスパーソンが日本史を学ぶには高校教科書「日本史A」がいいと書かれていますね。あえて『大学への日本史』の復刊をすすめた理由は何だったのでしょう。
佐藤 「日本史A」の教科書は主に商業高校,工業高校など実業系の学校で使われている教科書です。近代史に特化していて,解説もわかりやすい。非常にいい教材なのですが,グローバルに仕事をしたい,会社で出世したいというような,上をめざすビジネスパーソンにとっては,必要となる知識は近現代史だけではありません。
 国際的なビジネスの場で,外国人から聞かれる話のほとんどは「日本の歴史や文化です。にもかかわらず,日本の歴史や文化についての知識が乏しいビジネスパーソンが少なくないんです。
山岸 高校生でも,海外留学していちばん困るのはそこなんです。相撲について質問されても,「起源は応神天皇にあります」などと説明できる生徒はそういません。海外の人からすれば,日本人なら当然そういう質問には答えられると思うのでしょうが。
佐藤 逆の立場で考えてみるとわかりやすいと思うんです。中国の人に「文化大革命の評価は,いまどうなっていますか?」と尋ねたとき,「文化大革命って何ですか?」という対応をする人は,高校生ならまだしも,第一線で働くビジネスパーソンとしては,おそらく信用されませんよね。
山岸 生徒からは「ホームステイ先で,裏千家表千家の違いについて聞かれ


安藤達朗 あんどう・たつろう 【著】
駿台予備学校日本史科講師。1935年、台湾生まれ。戦後、鹿児島に引き揚げる。東京大学文学部国史学科卒業、同大学院比較文学比較文化専攻課程修了。
著書に、『大学への日本史』(研文書院)、『日本史講義』シリーズ、『日本史B問題精選』、『大学入試必ずワカる日本史の学習法』(以上、駿台文庫)などがある。2002年没。


山岸良二 やまぎし・りょうじ 【監修】
東邦大学付属東邦中高等学校教諭、習志野市文化財審議会会長。1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。
専門は日本考古学。日本考古学協会全国理事を長年、務める。NHKラジオ「教養日本史・原始編」、NHKテレビ「週刊ブックレビュー」、日本テレビ世界一受けたい授業」出演や全国での講演等で考古学の啓蒙に努め、近年は地元習志野市に縁の「日本騎兵の父・秋山好古大将」関係の講演も多い。
新版 入門者のための考古学教室』、『日本考古学の現在』(以上、同成社)、『日曜日の考古学』(東京堂出版)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など多数の著書がある。


佐藤優 さとう・まさる 【企画・編集・解説】
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波書店)、『人に強くなる極意』(青春出版社)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

【原始・古代】
第1章 日本文化の起源
第2章 古代国家の形成と発展
第3章 貴族政治の展開

中世
第4章 武家社会の形成
第5章 大名領国の成立

近世(前期)
第6章 大名領国の展開と織豊政権
第7章 幕藩体制の成立

付録 (1) 史料演習
付録 (2) 日本史の基礎知識

スペシャル対談
『いっきに学び直す日本史入門 古代・中世・近世 教養編』の読みどころ
佐藤優×山岸良二