2009-09-25から1日間の記事一覧

悪党 - 薬丸岳

まだ六時前だというのにあたりは薄暗かった。 サドルを握った手に冷たい風が突き刺さってくる。僕は力一杯自転車を漕いだ。 サッカー部の練習が終わった後、仲間たちからコンビニに寄ろうと誘われたが、今日はまっすぐ家に帰ることにした。 薄闇に包まれた住…

悪意の森 - タナ・フレンチ

香山二三郎が『青春と読書』10月号で書評していた本。 IRAが出てこないアイリッシュ・ミステリーらしい。 「たぶん、誰かが飼ってるただの汚れた黒いプードルなんだろうけど、よくこんなふうに考えるんだ---もしかしてあれが神で、おれに生きてる価値がな…

Nの肖像 - 仲正昌樹

『集中講義!現代思想』(NHKブックス)など、歯切れのいい文章でその名を知っていた金沢大学教授・仲正昌樹の自分史である。四十歳半ばの彼が、なぜそんな一冊を上梓したのか。その理由がサブタイトルにある。「へー」と思い、つい手にとって読んでしま…

狼疾正伝--中島敦の文学と生涯 - 川村湊

■存在への執着と疑いに発する文学 [掲載]2009年8月30日* [評者]阿刀田高(作家) 生誕100年、早世した中島敦についての入念な評伝である。作家研究として深い。 残された作品の多い作家ではない。ある時期まではそう高い評価を受けた作家ではなかった。し…